パルティスキ沿岸砲の制御権を巡り、正規軍と死闘を繰り広げるAR小隊。

しかし、正規軍兵士の決死行動により砲弾が放たれ、指揮官の乗る装甲列車へと直撃してしまう・・・

MuMu20200307224548





3章:破碎偏振面




電流のような凄まじい痛みを感じ、私の意識は現実へと引き戻された。こんな経験をしたのは何時ぶりか・・・



指揮官:

ここは・・・どこだ・・・?



目を開けたつもりだが、そこに映るのは暗闇だけだ。ただ、猛烈な硝煙の匂いが鼻につく。

息を吸う度に焼けるような空気が肺に入り、周囲には熱風が充満している



指揮官:

衝撃による一時的な失明か?

・・・クソ、聴覚だけは生きているな・・・


???:

指揮官、無闇に動かないで。まず息を整えて下さい。

これを、時間は余り残っていません。



湿った布が口と鼻を覆い、それだけで呼吸が大分楽になった。



指揮官:

君は誰だ?


???:

あなたの人形です、喋らないで、体力を温存して下さい。



暗闇の中、私は何とか状況を思い出そうとした。



指揮官:

あぁぁ!



すぐに記憶は思い出され、私は感電したかのような衝撃を受けた。



指揮官:

あの爆音は・・・沿岸砲か・・・


???:

軍が砲弾を撃ちこんできました。動けますか?

私がサポートします、一緒に来て下さい。



意識が更に明瞭になってきた。まだ目は見えないが、体に大きな怪我は無いようだ・・・



指揮官:

大丈夫だ・・・他の人形は?


???:

立ち上がりますよ、1・2!


指揮官:

っつ・・・!



その人形は問いかけに答えず、私の体を起き上がらせた。

彼女の小さな肩はまるで燃えているかのごとく熱かった。

一歩ずつ慎重、且つ迅速に私たちは歩き続けた。



???:

こちらです、はいここです。

申し訳ありません、火の勢いが強く捜索に時間がかかってしまいました。

さぁ、ここから飛び降りれば皆が指揮官を受け止めてくれるはずです。


指揮官:

火の勢いが強い?君はどうするつもりだ?


???:

私は大丈夫です。他に逃げ遅れた人がいないか探してきます。


指揮官:

待て、君は誰なんだ?名前を言え!


???:

私は、ただのしがない人形です。


???:

指揮官が降りる!皆、受け取めて!



彼女は私を押し出し、私は浮遊感を感じつつ下へと落ちていった。

数瞬後、幾つもの腕が私を受け止め、私はそのままの状態で素早く運ばれていった。



ズガンッ!!!



先程までいた方向から、凄まじい爆発音が立て続けに起こった。



???:

道を空けて!カリーナさんはどこ!?

指揮官様を見つけたわ、すぐ治療を!


???:

指揮官さま!


指揮官:

この声は・・・カリーナか?怪我は無いか?


カリーナ:

は、はい・・・私は無事です。もしかして目が・・・?


指揮官:

すまない、衝撃のせいか今は何も見えない。


カリーナ:

少し待って下さい、すぐに応急処置を・・・


指揮官:

分かった・・・部隊の状況はどうなっている?それと私を助けた人形は誰なんだ?


カリーナ:

・・・・・・



カリーナは無言のまま震える手で応急処置を始めた。

しかし、私には彼女のすすり泣く声が聞こえた・・・



指揮官:

カリーナ・・・答えてくれ。


カリーナ:

列車は沿岸砲の直撃を受けて・・・完全に破壊されました・・・

衝撃波が私たちのいる隔離壁内部にまで入ってきて、あちこちで火災が・・・

私は人形たちがすぐ運んでくれたのですが、指揮官さまは瓦礫の中に埋もれてしまって・・・

何人もの人形が炎の中へ救出に向かったんです。そして、ほとんど戻ってきませんでした・・・


指揮官:

・・・


カリーナ:

指揮官さま、私たち・・・負けたのですか?


指揮官:

・・・・・・



常に明るく前向きだった彼女の問いかけに、私は答えることが出来なかった。



カリーナ:

・・・治療が終わりました。

指揮官様、ゆっくり目を開いて下さい。



カリーナの言うとおり、私はまた目を開けた・・・



私は基地内の空き地におり、周囲には生き残った人形達が集っていた。

・・・どの人形にも銃創、あるいは火傷による負傷があった。

来たるべき結末を感じ取っているのか、どの人形も途方にくれ、諦めの表情で私を見つめており、何も喋らなかった。

頭を下げると、カリーナも同じ目で私を見ていた。



指揮官:

カリーナ、私を助けてくれたのは・・・誰なんだ?


リーナ:

分かりません・・・何人もの人形が向かいました・・・


指揮官:

そうか、分かった・・・

ダンドリーは?


カリーナ:

爆発によってこことは別のエリアへ・・・

まだ通信は可能です。


指揮官:

繋いでくれ。

ダンドリー、聞こえるか。状況はどうなっている・・・


ダンドリー:

現在、人形部隊の残存戦力は5%以下です。

まだ戦い続けるつもりですか?


指揮官:

・・・他に道は無い。

だが、事前に用意していた作戦は全て使い果たした。新たな策は無いか?


ダンドリー:

グリフィンにはまだ勝算があります。ただし、確率は1%未満に過ぎません。


指揮官:

あるだけマシだ。


ダンドリー:

沿岸砲の砲撃により装甲列車は破壊されました。が、AR小隊によって砲台のコントロールルームは占領されています。

間違いなく軍も制圧を試みるでしょうが、それまでの間砲撃可能です。

敵装甲列車の座標さえ特定できれば、反撃することができます。


指揮官:

カリーナ!反逆小隊に軍の位置を観測するよう伝えろ!


カリーナ:

はい、すぐに!


ダンドリー:

現在地点で防衛線を敷くのは困難です。404小隊、並びに反逆小隊が基地内へ撤退する際使用したルートがあります。

このルートを使用して内部に撤退、その後入り口を爆破すれば多少の時間を稼げるでしょう。


指揮官:

分かった、遅滞戦術が役に立てばいいが。


ダンドリー:

それから現在生き残っている人形のマインドマップをもう一度バックアップしました。

私がここにいてもこれ以上役に立ちません、私はルニーシアの援護に向かいます。

指揮官、幸運を。


指揮官:

ああ、向こうの小隊を助けてくれ。

最悪、君だけでも生き残れば・・・