PP90:
…………
…Vi…vi?
Vector:
動かないで、肩をしっかり保持して私の体にしがみついて。
そうしないとあなたを体ごと運べないから…!
…ダダダンッ!
PP90:
わたし…もう死んだと…
Vector:
私たちは人形、動脈を数本切っただけで死ぬ人間じゃない。
ワザとかどうか知らないけど、ゼーレが間違えたのよ。
PP90:
けど…ゲホッ…私たちはまだ危険なん…しょ?
…ダダダンッ!
Vector:
死士の数が多い、逃げ切れるかも分からないわ。
何か言い残したいことはある?少しは気持ちが楽になるかもよ。
PP90:
私を、捨てて…
Vector:
それだけは断るわ、私は真面目に…
…待って、あなた泣いてるの…?
…Vectorに背負われたまま、PP90はすすり泣いた
PP90:
Vivi、お願いよ…
私たち二人とも死んでしまったら、マインドマップ上の記録が全部無くなってしまう…
やっと…やっと仲良くなれたのに。
Vector:
……
私に生きて帰って、別のあなたに「ほんの数分だけど、私たちは絶望的な戦場で戦ったパートナーだったの」と報告しろと?
何も知らないあなたの前で今日の顛末を説明するくらいなら、ここで死んだほうがましよ。
PP90:
へへっ…あなた、いま…
…私をパートナーとして認めてくれたんだね。
…空弾倉が床に落ち、新たな弾倉が装填される
Vector:
そうよ…
私には理解できなかった、あなたがどうして纏わりついてくるのか…
PP90:
そうね、この薄情で悲観的で…屁理屈ばっかこねる嫌われ者。
いっつも一人で抱え込むくせして、少し躓いただけですぐ諦めて…
Vector:
ありがとう、同情してくれてたの?
こんな性格だから、私はあなたが嫌いだったわ。
PP90:
私はあなたが羨ましかった!Viviのバカ!! ゲホッゲホ!
…私はこの仕事が好き…グリフィンも、指揮官も、他の人形たちも好きなの。だけど、時には別の気持ちが…
だから…偶には…いえ、毎日…毎日2~3分程度でいい…
私はあなたみたいな人になりたかったの…!
…ダダンッ!
Vector:
あなたはいつもいい子だったから、皆に好かれてるんだと思ってた。
PP90:
どうして「いい子」でいないといけないの…皆がそれを求めてるからなの?
Vector:
……
Vectorはしばらく沈黙した
Vector:
ありがとう、PP90。
PP90:
えっ?
Vector:
それと、ごめんなさい。
…PP90は苦しそうに笑い出した。
PP90:
私が一番聞きたかった言葉…それを今この状況で、両方とも言ってしまうなんて…
もう十分よ、お願いだから…私を捨てて…
Vector:
今の言葉は忘れてちょうだい、もう安全地帯よ
…そうですよね?ライデン・メイさん。
…通路の向こうからメイが歩いてきた。
メイ:
ごめんなさい、二人とも無事かしら?
Vector:
この格好で無事かって?
…PP90の腰を見てから言って欲しいわ、今にも千切れそうなのよ。
PP90:
メイさん…ゼーレさんはどうしたのですか?
メイ:
ゼーレは崩壊エネルギーを吸収し、非常に強大な力を手に入れたの…今はキアナが時間を稼いでる。
そしてFive-Sevenさんとテレサ学園長が今作戦を立ててます。
PP90:
Five-Sevenが?うわぁ…
あいつの計画を使わないといけないなんて、どれだけ酷い状況なの…
メイ:
PP90さんの損傷が酷いみたいね、すぐに後方へ運びましょう。
ただ…この状況ですみません、Vectorさん…
緊急修復をした後、また戦闘することはできますか?
Vector:
ふふっ、また日常に戻らないといけないのかしら?
それで、何をすればいいの?
メイ:
少し待って、まずは目の前の死士たちを片付けるわ。
ごめんなさいね…
…メイはVectorに一礼した後死士達に銃口を向けた。
Vector:
すみませんが、もう立ってるのですら精一杯です。これ以上時間をかけるのはよくないんですが。
メイ:
5分後にテレサ学園長が迎えに来ます。
Vector:
たかが人形、それも私みたいなものにそこまで重要性は無いと考えるけど?
PP90:
あなたはとっても重要な人形よ、Vivi。少なくとも私にとってはね…
この数分間、私を背負ったまま脱出しくれたんだから!
Vector:
お手本通りのお世辞をありがとう、
ところで「背負ったまま脱出」という言葉は私の耐荷重能力を考慮して言ってくれたのかしら?
PP90:
えへへ、そぅ…ゲホッ…
それにあなたならこれ以上、もっと色々なことにも耐えられるってことも知ってるわ。
Vector:
ありがとう、その言葉通りならわたしも必要とされてたのね。
メイ:
少なくとも、Vectorさん…
自分が「重要」かどうかは、自ら決める物ではありません。
信じて下さい。2つの世界を救うには、あなたの力が必要なんです。
…
……
…ゼーレとの戦闘も終わりを迎えている
ゼーレ:
…キアナさん?まだ戦うつもりですか?
そしてメイ姉さん…来てくれてありがとう。
けど…メイ姉さんもゼーレを殺さないつもりですか?
メイ:
ゼーレ…
ゼーレ:
ふふっ…
姫子さんも同じ、Nexusを使ったところでゼーレがブローニャ姉を連れていくのを阻止できませんでした。
キアナ:
あなたを傷つけたくないのよ!ゼーレ!
ゼーレ:
傷つけたくないのは私じゃ無い、もう一人のゼーレですよね?
メイ:
そんなの関係ない…
私たちは…あなたを救いたいのよ…
ゼーレ:
救う?ゼーレはもうすぐ幸せになります。この新しい世界で…
皆さんがゼーレとブローニャ姉のことを忘れて、通路が消える前に帰ってくれれば、それで十分です!
キアナ:
ゼーレ、あなたはこの世界に崩壊を持ち込んでしまった。その内ここも私たちの世界みたいになってしまう…
崩壊が降臨してしまったら、あなたに幸せは来ないのよ!
ゼーレ:
ゼーレには、この世界に無い力があります!
ゼーレが消え去るまで、この世界で、ゼーレより強い存在はいません!
そう、誰も…ブローニャ姉を傷つけることはできません…!
キアナ:
それは違う!
私たちが、何としてもあなたを止めてみせる。
ゼーレ:
「私たち」?他にどんな仲間がいるんですか?命令に従うことしか出来ない人形だけじゃないですか!
役に立たないゼーレと同じ、ただ人の言うことだけ聞く人形!そんなの、ゼーレの敵ではありません!
キアナ:
ゼーレ…知ってるかしら?
私たちの勝利の鍵は、戦術人形じゃないの。
ゼーレ:
ええ、ゼーレはもう分かってます…
テレサ学園長…この隙に、ブローニャ姉を連れてくつもりですか?
テレサ:
あら?
ゼーレ:
最初から分かってました。
人形たちはただの囮、あなたが遊園地に入るまで時間を稼ぐことが目的でしたね?
けど、いくら気配を隠そうとしても学園長の気配は強いですから。ゼーレ、ずっと気をつけてましたよ。
テレサ:
おっと、バレてたのか。
じゃあ仕方ない、私の役目はここまでだ。
キアナ:
学園長、ありがとう。時間通りだったわね。
ゼーレ:
何を…?
テレサ:
残念だけど、あたくしはただ戦闘を見に来ただけよ。
ついでに…あなたの注意を引きつけるためにね。
ゼーレ:
…!
テレサ:
ブローニャはもう別の人が連れて行ったわ。
正確には、別の人形というべきかしら。
Vector:
ごめんなさいね、ゼーレさん。またこのうんざりした顔を見せてしまって。
けど安心して、もう一緒に行動することもないわ…もうすぐお別れするから。
Five-seveN:
ゼーレさんは、人形の気配を感じ取れないの?
姫子:
人形は崩壊エネルギーを持ってない、更に生命が発する「気配」も感じ取れないわ。
作戦の立案段階から救出の主役はVectorだった、ここの地形を熟知し個人行動も得意な人形だからね。
Vector:
快速修復に感謝します。
そしてゼーレさん、ついでにサプライズをあげますよ。
ゼーレ:
嘘…ゼーレは感じます、ブローニャ姉はまだここにいる!
ゼーレを騙したつもりですか!あなたたちはブローニャ姉を連れて行ってません!!
??:
ゼーレ。
…ゼーレは呼びかけを聞き振り返った。
ゼーレ:
ブローニャ…姉…
あなたも、ゼーレと戦うんですか?
ブローニャ:
ブローニャは、ゼーレと戦わない。
ゼーレ:
じゃあゼーレのそばにいて下さい!ゼーレが邪魔者を倒せば…
全て、全て片付きます!
ブローニャ:
ブローニャは変な夢を見た。
夢の中では、目が赤く、身長も高く、そして皆ともっと仲良くなっていました。
Vector:
申し訳ありません、覚醒させるとき少し精神的な方法を使いまして…
ゼーレ:
この恥知らずな人形め!ブローニャ姉に何をしたの!!
また…またこんなピエロと、ブローニャ姉を一緒にしないで!
Vector:
ええ、私もとてもイヤです。ただ、私はあなたができないことをやりました。
ゼーレ:
何をしたの…
Vector:
それは…ブローニャさんにゼーレさんについて聞いてみることです。
ブローニャ:
ブローニャは、自分が本物のブローニャで無いことを知ってます。
それでも…ブローニャは「ブローニャ」として今生きてます。
そしてゼーレ…あなたは本当にゼーレとして存在してるのですか?
ゼーレ:
何を言ってるんですか…ブローニャ姉…
…ゼーレは…勿論ゼーレですよ…
ブローニャ:
違う。
ブローニャは、「ゼーレ」に尋ねました。
ゼーレ:
えっ?
ブローニャ:
真のゼーレに。
…ゼーレの手が痙攣したかのように動いた
ゼーレ?:
もう十分です…
ゼーレ:
いや…いやだ、まだ出てこないで…
ゼーレ?:
やはり、あなたに任せるわけにはいきません…
ブローニャ:
ゼーレ、目を覚まして
ゼーレ:
イヤだ…イヤ!
ブローニャ姉…お願い…!
ゼーレは…ゼーレはもう消えたくない!
ゼーレ?:
ゼーレは消えません…
ゼーレはただ、また私の一部に戻ってくるだけ…
戻ってきて、ゼーレ。「ゼーレ」の中に戻ってきて…
…ゼーレが意識を失い倒れ込む直前で、ブローニャがゼーレを支えた。
…そして、ゼーレは再び目を覚ました…
ゼーレ:
ブローニャ姉…?
ゼーレ…帰ってきました。
ブローニャ:
…お帰り、ゼーレ。
……
キアナ:
ふぅ…これで全部解決したのかしら?
どう、Five-seveNさん?
Five-seveN:
完全解決とは言えないけど、ひとまずFALに報告ぐらいは出来るわね。
メイ:
油断しないで、キアナ。まだこの世界の崩壊発生源を片付けてないから。
キアナ:
どうせ学園長がやってくれるでしょ?
テレサ:
何ですって?あたくしはやらないわよ、調べなければいけないことが山のようにあるんだから!
分かってる?この世界は「ホム」の事さえ知らないのよ!
崩壊発生源の除去なんて雑務は姫子がやってちょうだい!
姫子:
はぁー…こうなると思ってたわ…
だけど今日だけは仕事を忘れて、シャワー浴びた後グリフィンのバーに行かせてちょうだい。
キアナ:
私も行く!これまでずっと指揮官をやってたけど、今まで戦ってくれた人形とも交流したーい!
Five-seveN:
休んでも構わないけど、面倒事だけは起こさないでちょうだいね。
指揮官が帰って来るまでに、指揮系統の復元をしないと…
ところでキアナさん、PP90の状態はどうなってるの?
キアナ:
状態は安定していて、すぐ快速修復を受けられるって。
Vectorもすぐ会いに行けるわよ。
Vector:
どうして私にそんな情報を…
キアナ:
へへっ、PP90が全部教えてくれたわ。
あとブローニャと真のゼーレを起こす方法もVectorが考えたんでしょ?
Vector:
PP90からも一時的に教えて貰ったわ。ことメンタルに関しては、私も彼女もどう対処していいか分かってるから。
キアナ:
へえ~、あなたにも同じ症状を持った友達が出来たんだね?
Vector:
ただ同じ病気持ちの仲間、それだけよ。
キアナ:
関係ないわ!そしてVector、今晩パーティーを開くから絶対参加するように!
Vector:
(肩をすくめて)あなたはお客様です、どうぞご自由に。
…
…その夜、天命のメンバーとグリフィン人形はパーティーを楽しんだ。
…3日後、ベクターの宿舎
??:
Vectorー!
Vector:!早く起きろ!
Vector:
ちょっと…
……
キアナ:
朝食の用意が出来たから、早くして!
全く本当に!PP90の言うとおり、あなたはグリフィン一番のねぼすけね!
Vector:
…PP90の知らない人形がまだまだ多いってだけよ…
…Vector:はベッドから起き上がり、大きなあくびをした。
Vector:
あと「本当に」ってのは私のこと?今日はいつもより早く起きたんだけど…
キアナ:
あのねぇ!それは、私が起こしてあげたからでしょ!
お礼の一言ぐらい言ってもいいでしょ!
Vector:
ありがとう。それで、今日何があるの?
キアナ:
今日は指揮官が帰ってくるのよ、もっと元気にしないでどうするの!
Vector:
いや、私が元気にしたところで…
えっ…ちょっと待って…
……キアナ?
キアナ:
何?
Vector:
あなた、元の世界に…戻ったんじゃ?
キアナ:
戻るって何よ?私はずっとこの基地にいたんだから!
Vector:
……
ああ、そうだね…
(この娘は…テレサが残した人形だ。)
(姫子があの後、より多くの情報をインプットして…残りの人たちも完璧な人形を作ったんだった。)
Five-seveN:
グッモーニング、Vivi!
キアナさんとあれだけそりが合わなかったのに、ちゃんと起きてくれるなんてね。
Vector:
どうしてあなたまでそう呼ぶのよ…
Five-seveN:
フフフッ、今日から皆があなたをこう呼ぶわ。
それで、今日のモーニングコールはどう?満足してくれたかしら?
Vector:
最高ね、キアナの大声で思考回路が数本切断されたぐらいよ。
同じモーニングコールならメイさんを送って欲しかったんだけど。
Five-seveN:
んー、次はゼーレさんでどうかしら?あの危険な人格データも調達出来るははずよ。
Vector:
最高ね、久しぶりに悪夢を見れそうだわ。
そういえば、彼女たちが探してた謎の兵器とやらは見つかったの?
Five-seveN:
テレサさんが言うには、鉄血のジュピターみたいな代物だって。
けどここのジュピターとは違う…多分この世界と別の世界線から来たんじゃ無いかって話。
Vector:
つまり、私たちとまるで関係ないって事ね。ところで指揮官は今日帰ってくるの?
Five-seveN:
昼頃に来る予定よ、
テレサさん曰く、崩壊エネルギーは人間の観測によって広がっていくらしいわ。だからしばらくの間基地を離れて貰ったの。
Vector:
物理学の話とはねぇ…
Five-seveN:
あら、もしかして苦手なの?「Vector」なんて名前を持ってるのに。
Vector:
逆に聞くけど、あなたは数学が得意なのかしら?
Five-seveN:
むむむ…
全く…あの子たちと数日過ごす間にもう少し正直になってると思ってたわ。
Vector:
他人は他人、私は私。これが私の性格だからね。
PP90:
Vivi!起きたの?
Vector:
ふぅ…私1人の時間も終わりかしら。
Five-seveN:
残り少ない休暇を楽しんでね、Vivi~
ブローニャ:
おはようございます、Viviさん。
PP90:
ねぇVivi、私たちの写真を撮って!
早く早く、指揮官様に素敵なお土産をプレゼントしたいの!
Vector:
あなた…もうそんなに仲良くなったの?
それで写真って…今?ここで?
ブローニャ:
今です。
PP90:
今すぐよ!
……
Vector:
動かないで、こっちを見て。
PP90:
私をキレイに撮ってよね!
Vector:
いいけど、そうするとブローニャが不公平じゃ無い?
ブローニャ:
ブローニャもキレイに撮影して欲しいです。
Vector:
了解。と言うわけでごめんなさいね、PP90。
PP90:
Vivi!2人ともキレイに撮ることはできないの?!
Vector:
残念だけど、この世界は何かしらの欠陥がある方が美しく見えるのよ。
PP90:
もう、勝手にしなさい!
ブローニャ、「チーズ」って知ってる?
ブローニャ:
つまり…昼食用の写真ということですか?
PP90:
えっと…いいや、Viviがカウントして!
Vector:
もう一度説明して、混乱しそうよ。
二人の髪が混ざってぐちゃぐちゃになりそうだから。
Vector:
いくよ。3,2,1-
チーズー
…カシャ!
PP90:
Viviにしては上手く撮れたんじゃない?
Vector:
いえ、あなたのずる賢さを1%もファインダーに収められず、誠に申し訳ありません。
ブローニャ:
ブローニャ、とても満足しました。
PP90:
本当にブローニャは笑わないんだから!
Viviがチーズって言うときも…
…そう言えば、Vivi、あなたさっき笑ったでしょ?
Vector:
あご部分だけを使えば、笑わずに「チーズ」と発音できるわ。
ブローニャ:
Viviは笑いました。
PP90:
ふふっ、私たちは何について話してるのでしょーか♪
Vector:
なに?私は以前の状態に戻りたいのに、あなたは何がうれしいの?
PP90:
過去に戻ることはできないよ、Vivi。
Vector:
…?
PP90:
私たちにできるのは…過去を大事にすることだけだよ。
いい過去も、悪い過去も…
色々な過去が積み重なっていくことで、最終的に私たちの「世界」が作られるんだから。
Vector:
…そうかもね。
この私が大嫌いな世界さん、今日もまた最悪の一日ね。
けれどまぁ、そこまで悪い気分じゃない。明日が今日以上に酷い場合もあるのだから…
けどこれが真実なら、少なくとも昨日、或いは一昨日……
過去を遡っていけば、いつかは全く悪くない日も存在するのだろうか?
大切にしたいことを少しでも思い出せたなら、その人たちのためにもう少し積極的に生きていく…
…これも悪くない選択でしょ?
PP90:
Vivi、あなた今少し笑った!
絶対笑ったでしょ、Vivi!
少女前線 「孤独な者」 END
ーーSee you in the next world.
…………
…Vi…vi?
Vector:
動かないで、肩をしっかり保持して私の体にしがみついて。
そうしないとあなたを体ごと運べないから…!
…ダダダンッ!
PP90:
わたし…もう死んだと…
Vector:
私たちは人形、動脈を数本切っただけで死ぬ人間じゃない。
ワザとかどうか知らないけど、ゼーレが間違えたのよ。
PP90:
けど…ゲホッ…私たちはまだ危険なん…しょ?
…ダダダンッ!
Vector:
死士の数が多い、逃げ切れるかも分からないわ。
何か言い残したいことはある?少しは気持ちが楽になるかもよ。
PP90:
私を、捨てて…
Vector:
それだけは断るわ、私は真面目に…
…待って、あなた泣いてるの…?
…Vectorに背負われたまま、PP90はすすり泣いた
PP90:
Vivi、お願いよ…
私たち二人とも死んでしまったら、マインドマップ上の記録が全部無くなってしまう…
やっと…やっと仲良くなれたのに。
Vector:
……
私に生きて帰って、別のあなたに「ほんの数分だけど、私たちは絶望的な戦場で戦ったパートナーだったの」と報告しろと?
何も知らないあなたの前で今日の顛末を説明するくらいなら、ここで死んだほうがましよ。
PP90:
へへっ…あなた、いま…
…私をパートナーとして認めてくれたんだね。
…空弾倉が床に落ち、新たな弾倉が装填される
Vector:
そうよ…
私には理解できなかった、あなたがどうして纏わりついてくるのか…
PP90:
そうね、この薄情で悲観的で…屁理屈ばっかこねる嫌われ者。
いっつも一人で抱え込むくせして、少し躓いただけですぐ諦めて…
Vector:
ありがとう、同情してくれてたの?
こんな性格だから、私はあなたが嫌いだったわ。
PP90:
私はあなたが羨ましかった!Viviのバカ!! ゲホッゲホ!
…私はこの仕事が好き…グリフィンも、指揮官も、他の人形たちも好きなの。だけど、時には別の気持ちが…
だから…偶には…いえ、毎日…毎日2~3分程度でいい…
私はあなたみたいな人になりたかったの…!
…ダダンッ!
Vector:
あなたはいつもいい子だったから、皆に好かれてるんだと思ってた。
PP90:
どうして「いい子」でいないといけないの…皆がそれを求めてるからなの?
Vector:
……
Vectorはしばらく沈黙した
Vector:
ありがとう、PP90。
PP90:
えっ?
Vector:
それと、ごめんなさい。
…PP90は苦しそうに笑い出した。
PP90:
私が一番聞きたかった言葉…それを今この状況で、両方とも言ってしまうなんて…
もう十分よ、お願いだから…私を捨てて…
Vector:
今の言葉は忘れてちょうだい、もう安全地帯よ
…そうですよね?ライデン・メイさん。
…通路の向こうからメイが歩いてきた。
メイ:
ごめんなさい、二人とも無事かしら?
Vector:
この格好で無事かって?
…PP90の腰を見てから言って欲しいわ、今にも千切れそうなのよ。
PP90:
メイさん…ゼーレさんはどうしたのですか?
メイ:
ゼーレは崩壊エネルギーを吸収し、非常に強大な力を手に入れたの…今はキアナが時間を稼いでる。
そしてFive-Sevenさんとテレサ学園長が今作戦を立ててます。
PP90:
Five-Sevenが?うわぁ…
あいつの計画を使わないといけないなんて、どれだけ酷い状況なの…
メイ:
PP90さんの損傷が酷いみたいね、すぐに後方へ運びましょう。
ただ…この状況ですみません、Vectorさん…
緊急修復をした後、また戦闘することはできますか?
Vector:
ふふっ、また日常に戻らないといけないのかしら?
それで、何をすればいいの?
メイ:
少し待って、まずは目の前の死士たちを片付けるわ。
ごめんなさいね…
…メイはVectorに一礼した後死士達に銃口を向けた。
Vector:
すみませんが、もう立ってるのですら精一杯です。これ以上時間をかけるのはよくないんですが。
メイ:
5分後にテレサ学園長が迎えに来ます。
Vector:
たかが人形、それも私みたいなものにそこまで重要性は無いと考えるけど?
PP90:
あなたはとっても重要な人形よ、Vivi。少なくとも私にとってはね…
この数分間、私を背負ったまま脱出しくれたんだから!
Vector:
お手本通りのお世辞をありがとう、
ところで「背負ったまま脱出」という言葉は私の耐荷重能力を考慮して言ってくれたのかしら?
PP90:
えへへ、そぅ…ゲホッ…
それにあなたならこれ以上、もっと色々なことにも耐えられるってことも知ってるわ。
Vector:
ありがとう、その言葉通りならわたしも必要とされてたのね。
メイ:
少なくとも、Vectorさん…
自分が「重要」かどうかは、自ら決める物ではありません。
信じて下さい。2つの世界を救うには、あなたの力が必要なんです。
…
……
…ゼーレとの戦闘も終わりを迎えている
ゼーレ:
…キアナさん?まだ戦うつもりですか?
そしてメイ姉さん…来てくれてありがとう。
けど…メイ姉さんもゼーレを殺さないつもりですか?
メイ:
ゼーレ…
ゼーレ:
ふふっ…
姫子さんも同じ、Nexusを使ったところでゼーレがブローニャ姉を連れていくのを阻止できませんでした。
キアナ:
あなたを傷つけたくないのよ!ゼーレ!
ゼーレ:
傷つけたくないのは私じゃ無い、もう一人のゼーレですよね?
メイ:
そんなの関係ない…
私たちは…あなたを救いたいのよ…
ゼーレ:
救う?ゼーレはもうすぐ幸せになります。この新しい世界で…
皆さんがゼーレとブローニャ姉のことを忘れて、通路が消える前に帰ってくれれば、それで十分です!
キアナ:
ゼーレ、あなたはこの世界に崩壊を持ち込んでしまった。その内ここも私たちの世界みたいになってしまう…
崩壊が降臨してしまったら、あなたに幸せは来ないのよ!
ゼーレ:
ゼーレには、この世界に無い力があります!
ゼーレが消え去るまで、この世界で、ゼーレより強い存在はいません!
そう、誰も…ブローニャ姉を傷つけることはできません…!
キアナ:
それは違う!
私たちが、何としてもあなたを止めてみせる。
ゼーレ:
「私たち」?他にどんな仲間がいるんですか?命令に従うことしか出来ない人形だけじゃないですか!
役に立たないゼーレと同じ、ただ人の言うことだけ聞く人形!そんなの、ゼーレの敵ではありません!
キアナ:
ゼーレ…知ってるかしら?
私たちの勝利の鍵は、戦術人形じゃないの。
ゼーレ:
ええ、ゼーレはもう分かってます…
テレサ学園長…この隙に、ブローニャ姉を連れてくつもりですか?
テレサ:
あら?
ゼーレ:
最初から分かってました。
人形たちはただの囮、あなたが遊園地に入るまで時間を稼ぐことが目的でしたね?
けど、いくら気配を隠そうとしても学園長の気配は強いですから。ゼーレ、ずっと気をつけてましたよ。
テレサ:
おっと、バレてたのか。
じゃあ仕方ない、私の役目はここまでだ。
キアナ:
学園長、ありがとう。時間通りだったわね。
ゼーレ:
何を…?
テレサ:
残念だけど、あたくしはただ戦闘を見に来ただけよ。
ついでに…あなたの注意を引きつけるためにね。
ゼーレ:
…!
テレサ:
ブローニャはもう別の人が連れて行ったわ。
正確には、別の人形というべきかしら。
Vector:
ごめんなさいね、ゼーレさん。またこのうんざりした顔を見せてしまって。
けど安心して、もう一緒に行動することもないわ…もうすぐお別れするから。
Five-seveN:
ゼーレさんは、人形の気配を感じ取れないの?
姫子:
人形は崩壊エネルギーを持ってない、更に生命が発する「気配」も感じ取れないわ。
作戦の立案段階から救出の主役はVectorだった、ここの地形を熟知し個人行動も得意な人形だからね。
Vector:
快速修復に感謝します。
そしてゼーレさん、ついでにサプライズをあげますよ。
ゼーレ:
嘘…ゼーレは感じます、ブローニャ姉はまだここにいる!
ゼーレを騙したつもりですか!あなたたちはブローニャ姉を連れて行ってません!!
??:
ゼーレ。
…ゼーレは呼びかけを聞き振り返った。
ゼーレ:
ブローニャ…姉…
あなたも、ゼーレと戦うんですか?
ブローニャ:
ブローニャは、ゼーレと戦わない。
ゼーレ:
じゃあゼーレのそばにいて下さい!ゼーレが邪魔者を倒せば…
全て、全て片付きます!
ブローニャ:
ブローニャは変な夢を見た。
夢の中では、目が赤く、身長も高く、そして皆ともっと仲良くなっていました。
Vector:
申し訳ありません、覚醒させるとき少し精神的な方法を使いまして…
ゼーレ:
この恥知らずな人形め!ブローニャ姉に何をしたの!!
また…またこんなピエロと、ブローニャ姉を一緒にしないで!
Vector:
ええ、私もとてもイヤです。ただ、私はあなたができないことをやりました。
ゼーレ:
何をしたの…
Vector:
それは…ブローニャさんにゼーレさんについて聞いてみることです。
ブローニャ:
ブローニャは、自分が本物のブローニャで無いことを知ってます。
それでも…ブローニャは「ブローニャ」として今生きてます。
そしてゼーレ…あなたは本当にゼーレとして存在してるのですか?
ゼーレ:
何を言ってるんですか…ブローニャ姉…
…ゼーレは…勿論ゼーレですよ…
ブローニャ:
違う。
ブローニャは、「ゼーレ」に尋ねました。
ゼーレ:
えっ?
ブローニャ:
真のゼーレに。
…ゼーレの手が痙攣したかのように動いた
ゼーレ?:
もう十分です…
ゼーレ:
いや…いやだ、まだ出てこないで…
ゼーレ?:
やはり、あなたに任せるわけにはいきません…
ブローニャ:
ゼーレ、目を覚まして
ゼーレ:
イヤだ…イヤ!
ブローニャ姉…お願い…!
ゼーレは…ゼーレはもう消えたくない!
ゼーレ?:
ゼーレは消えません…
ゼーレはただ、また私の一部に戻ってくるだけ…
戻ってきて、ゼーレ。「ゼーレ」の中に戻ってきて…
…ゼーレが意識を失い倒れ込む直前で、ブローニャがゼーレを支えた。
…そして、ゼーレは再び目を覚ました…
ゼーレ:
ブローニャ姉…?
ゼーレ…帰ってきました。
ブローニャ:
…お帰り、ゼーレ。
……
キアナ:
ふぅ…これで全部解決したのかしら?
どう、Five-seveNさん?
Five-seveN:
完全解決とは言えないけど、ひとまずFALに報告ぐらいは出来るわね。
メイ:
油断しないで、キアナ。まだこの世界の崩壊発生源を片付けてないから。
キアナ:
どうせ学園長がやってくれるでしょ?
テレサ:
何ですって?あたくしはやらないわよ、調べなければいけないことが山のようにあるんだから!
分かってる?この世界は「ホム」の事さえ知らないのよ!
崩壊発生源の除去なんて雑務は姫子がやってちょうだい!
姫子:
はぁー…こうなると思ってたわ…
だけど今日だけは仕事を忘れて、シャワー浴びた後グリフィンのバーに行かせてちょうだい。
キアナ:
私も行く!これまでずっと指揮官をやってたけど、今まで戦ってくれた人形とも交流したーい!
Five-seveN:
休んでも構わないけど、面倒事だけは起こさないでちょうだいね。
指揮官が帰って来るまでに、指揮系統の復元をしないと…
ところでキアナさん、PP90の状態はどうなってるの?
キアナ:
状態は安定していて、すぐ快速修復を受けられるって。
Vectorもすぐ会いに行けるわよ。
Vector:
どうして私にそんな情報を…
キアナ:
へへっ、PP90が全部教えてくれたわ。
あとブローニャと真のゼーレを起こす方法もVectorが考えたんでしょ?
Vector:
PP90からも一時的に教えて貰ったわ。ことメンタルに関しては、私も彼女もどう対処していいか分かってるから。
キアナ:
へえ~、あなたにも同じ症状を持った友達が出来たんだね?
Vector:
ただ同じ病気持ちの仲間、それだけよ。
キアナ:
関係ないわ!そしてVector、今晩パーティーを開くから絶対参加するように!
Vector:
(肩をすくめて)あなたはお客様です、どうぞご自由に。
…
…その夜、天命のメンバーとグリフィン人形はパーティーを楽しんだ。
…3日後、ベクターの宿舎
??:
Vectorー!
Vector:!早く起きろ!
Vector:
ちょっと…
……
キアナ:
朝食の用意が出来たから、早くして!
全く本当に!PP90の言うとおり、あなたはグリフィン一番のねぼすけね!
Vector:
…PP90の知らない人形がまだまだ多いってだけよ…
…Vector:はベッドから起き上がり、大きなあくびをした。
Vector:
あと「本当に」ってのは私のこと?今日はいつもより早く起きたんだけど…
キアナ:
あのねぇ!それは、私が起こしてあげたからでしょ!
お礼の一言ぐらい言ってもいいでしょ!
Vector:
ありがとう。それで、今日何があるの?
キアナ:
今日は指揮官が帰ってくるのよ、もっと元気にしないでどうするの!
Vector:
いや、私が元気にしたところで…
えっ…ちょっと待って…
……キアナ?
キアナ:
何?
Vector:
あなた、元の世界に…戻ったんじゃ?
キアナ:
戻るって何よ?私はずっとこの基地にいたんだから!
Vector:
……
ああ、そうだね…
(この娘は…テレサが残した人形だ。)
(姫子があの後、より多くの情報をインプットして…残りの人たちも完璧な人形を作ったんだった。)
Five-seveN:
グッモーニング、Vivi!
キアナさんとあれだけそりが合わなかったのに、ちゃんと起きてくれるなんてね。
Vector:
どうしてあなたまでそう呼ぶのよ…
Five-seveN:
フフフッ、今日から皆があなたをこう呼ぶわ。
それで、今日のモーニングコールはどう?満足してくれたかしら?
Vector:
最高ね、キアナの大声で思考回路が数本切断されたぐらいよ。
同じモーニングコールならメイさんを送って欲しかったんだけど。
Five-seveN:
んー、次はゼーレさんでどうかしら?あの危険な人格データも調達出来るははずよ。
Vector:
最高ね、久しぶりに悪夢を見れそうだわ。
そういえば、彼女たちが探してた謎の兵器とやらは見つかったの?
Five-seveN:
テレサさんが言うには、鉄血のジュピターみたいな代物だって。
けどここのジュピターとは違う…多分この世界と別の世界線から来たんじゃ無いかって話。
Vector:
つまり、私たちとまるで関係ないって事ね。ところで指揮官は今日帰ってくるの?
Five-seveN:
昼頃に来る予定よ、
テレサさん曰く、崩壊エネルギーは人間の観測によって広がっていくらしいわ。だからしばらくの間基地を離れて貰ったの。
Vector:
物理学の話とはねぇ…
Five-seveN:
あら、もしかして苦手なの?「Vector」なんて名前を持ってるのに。
Vector:
逆に聞くけど、あなたは数学が得意なのかしら?
Five-seveN:
むむむ…
全く…あの子たちと数日過ごす間にもう少し正直になってると思ってたわ。
Vector:
他人は他人、私は私。これが私の性格だからね。
PP90:
Vivi!起きたの?
Vector:
ふぅ…私1人の時間も終わりかしら。
Five-seveN:
残り少ない休暇を楽しんでね、Vivi~
ブローニャ:
おはようございます、Viviさん。
PP90:
ねぇVivi、私たちの写真を撮って!
早く早く、指揮官様に素敵なお土産をプレゼントしたいの!
Vector:
あなた…もうそんなに仲良くなったの?
それで写真って…今?ここで?
ブローニャ:
今です。
PP90:
今すぐよ!
……
Vector:
動かないで、こっちを見て。
PP90:
私をキレイに撮ってよね!
Vector:
いいけど、そうするとブローニャが不公平じゃ無い?
ブローニャ:
ブローニャもキレイに撮影して欲しいです。
Vector:
了解。と言うわけでごめんなさいね、PP90。
PP90:
Vivi!2人ともキレイに撮ることはできないの?!
Vector:
残念だけど、この世界は何かしらの欠陥がある方が美しく見えるのよ。
PP90:
もう、勝手にしなさい!
ブローニャ、「チーズ」って知ってる?
ブローニャ:
つまり…昼食用の写真ということですか?
PP90:
えっと…いいや、Viviがカウントして!
Vector:
もう一度説明して、混乱しそうよ。
二人の髪が混ざってぐちゃぐちゃになりそうだから。
Vector:
いくよ。3,2,1-
チーズー
…カシャ!
PP90:
Viviにしては上手く撮れたんじゃない?
Vector:
いえ、あなたのずる賢さを1%もファインダーに収められず、誠に申し訳ありません。
ブローニャ:
ブローニャ、とても満足しました。
PP90:
本当にブローニャは笑わないんだから!
Viviがチーズって言うときも…
…そう言えば、Vivi、あなたさっき笑ったでしょ?
Vector:
あご部分だけを使えば、笑わずに「チーズ」と発音できるわ。
ブローニャ:
Viviは笑いました。
PP90:
ふふっ、私たちは何について話してるのでしょーか♪
Vector:
なに?私は以前の状態に戻りたいのに、あなたは何がうれしいの?
PP90:
過去に戻ることはできないよ、Vivi。
Vector:
…?
PP90:
私たちにできるのは…過去を大事にすることだけだよ。
いい過去も、悪い過去も…
色々な過去が積み重なっていくことで、最終的に私たちの「世界」が作られるんだから。
Vector:
…そうかもね。
この私が大嫌いな世界さん、今日もまた最悪の一日ね。
けれどまぁ、そこまで悪い気分じゃない。明日が今日以上に酷い場合もあるのだから…
けどこれが真実なら、少なくとも昨日、或いは一昨日……
過去を遡っていけば、いつかは全く悪くない日も存在するのだろうか?
大切にしたいことを少しでも思い出せたなら、その人たちのためにもう少し積極的に生きていく…
…これも悪くない選択でしょ?
PP90:
Vivi、あなた今少し笑った!
絶対笑ったでしょ、Vivi!
少女前線 「孤独な者」 END
ーーSee you in the next world.
コメント
コメント一覧 (4)
一応誤字報告です。
PP90:
…PP90の知らない人形がまだまだ多いってだけよ…
ベクターのセリフがPP90のセリフになっています
ありがとうございます!
修正いたしました。
コメントいただきありがとうございます!
……実は崩壊学園側もコラボストーリーがあったりするんですね、どなたか翻訳してくれるとありがたいのですが。