・・・10分後


キアナ:
で、ブローニャ。
どうしてデストロイヤーを倒しちゃったわけ?
あいつを捕まえればグリフィンにとっても有益なはずだったのに。
ブローニャ:
メイ姉さんが言ってました。私たちはこの世界に過干渉すべきでないと。
キアナ:
はいはい、分かった分かった!けどこの状況をどうするつもり!
死士達が狂ったように拠点へ集まってるじゃない!絶対デストロイヤーの仇討ちをするつもりよ!
姫子:
いや、そうじゃない。むしろ逆なはずよ。
デストロイヤーの崩壊エネルギーが消えたせいで、死士達は制御を完全に失ってるんだわ。
キアナ:
ああ、もう!
よりによってこんな時に、ゼーレとVectorは何処へ消えたって言うの!
PP90:
信号消失ポイント自体は今いる拠点のかなり近くです。
けど、捜索範囲がかなり広いので・・・
メイ:
大丈夫、私たちで手分けして探せばいいわ。
姫子:
悪くない作戦だけど、この状況だと厳しいわね。
拠点に押し寄せるゾンビが多すぎる、1人で捜索するのは非常に危険よ。
PP90:
テレサさん、周囲の崩壊エネルギー発生源を取り除き、死士たちを止めることは可能でしょうか?
テレサ:
むむむ・・・完全に消しさるのは簡単じゃ無いわ。多分それまで、ゼーレとVectorが持ちこたえられないはず。
ブローニャ:
ブローニャなら、潜入工作が可能です。
姫子:
いや、私たちは外の地形・敵配置すら知らない状態よ。迂闊に飛び込むのは危険すぎるし、効率もよくない。
PP90:
なら私が行きます!このエリアならよく巡回してたので、地形も把握してます。
それに、Viviたち2人は信号の届かないところにいるはず。私なら近づきさえすれば、すぐに通信を取れますから!
キアナ:
けど、PP90だけで行く方が危険だわ。
姫子:
いや・・・調査結果によるとこの死士達は鉄血工廠製人形よ。何らかのコマンドを受けない限り、人形よりも人間に対する反応を優先する。そして人形は人間より気配を出さない、死士達にも感知されにくいはず。
メイ:
じゃあ、私たちは何をすれば?
PP90:
拠点は死士によって抱囲されてます。皆さんがグリフィンの代わりに拠点を守備していただくだけでも助かります。
テレサ:
その頼み、引き受けたわ。キアナ、例え死士一匹たりとも拠点に入れないように!
メイ:
けどまずはPP90のために道を切り開く必要があるわね。
キアナ:
分かった!まずはPP90を援護して、その後拠点を守ろう!
PP90はVectorとゼーレの行方を捜して!
PP90:
問題ありません、お任せ下さい!
メイ:
危なくなったらすぐに連絡してね。
ブローニャ:
もう1人のブローニャも、頑張って。
PP90:
エヘヘ・・・ブローニャさん、私も全力で行きます。安心して待ってて下さい!
姫子:
キアナ、目標地点までPP90をしっかりサポートしてちょうだい。
PP90:
はい!すぐにVectorとゼーレさんの位置を突き止めます、2人を探し出したらバックアップもお願いします!
テレサ:
残りの皆は拠点を死守するのよ。ゼーレとVectorを無事救出できれば、全て終わりなんだから!
・・・30分後
・・・ダダダンッ!

Vector:
ゼーレさん、まだ大丈夫ですか?
ゼーレ:
ゼーレは・・・大丈夫・・・です!
それよりもVectorさんが・・・
Vector:
あなたが無事でさえいれば、私は死にません。
心を落ち着かせて。深呼吸したり、数を数えたり、何か喋ってもいい。私のナイフを触る以外、好きなことで気を紛らわせて下さい!
ゼーレ:
はい・・・ゼーレ、ゼーレは分かりました!
・・・死士たちは際限なく集まってくる
Vector:
後ろに下がり続けて、もうすぐ地上に着くはずで・・・
ゼーレ:
Vectorさん!足下!!
・・・ダダンッ!
・・・Vectorは素早く反応、足下にいた死士を蹴り飛ばし、弾丸を2発ぶち込んだ。
Vector:
・・・
ありがとう・・・
ゼーレ:
何が、ですか?
Vector:
いいえ、ただお礼を言うのに慣れて無くて。
もしPP90が隣にいたら、前みたいな返答をしたのかもしれない。
ハハッ・・・あの時も、彼女の注意が無かったら・・・
ゼーレ:
その、信頼できるお友達がいるんですか?
Vector:
彼女は、あなたの言う「ブローニャ姉」にとても似ています。
けど正直とてもうるさかった。私は彼女みたいな人形が苦手でした。
誰にでも優しく、誰もが好意を向ける、八方美人な人形・・・ゼーレさん、足を止めないで!下がり続けて!
・・・Vectorは弾幕を張りつつ、ゼーレとともにトンネルの奥へと後退していく
・・・死士の攻勢が少し弱くなってきた
ゼーレ:
Vectorさんは、その人が嫌いなの?
Vector:
多分、私が嫌いなのは、私自身・・・
私がかけるべき言葉が「ありがとう」なのか「ゴメン」なのか、それすら分からない・・・
ゼーレ:
ゼーレ、とてもよく分かります。
Vectorさんも、ゼーレと・・・よく似てる・・・
Vector:
・・・
とにかく、早く出口に向かいましょう。今のことは、忘れて。
・・・ダダダンッ!ダダダンッ!
ゼーレ:
・・・ゼーレは、戻りたくないです。早くブローニャ姉と会って、そしてこの世界にずっといたい・・・
Vector:
ここにいるべきではありません、この世界は混乱と絶望に満ちています。
ゼーレ:
ゼーレの世界より、遙かにマシ。あの世界には何も無い・・・
Vector:
え?
あなたには・・・多くの友達がいるのでは?
ゼーレ:
いいえ、ゼーレには何もありません・・・
「家」も無い・・・ブローニャ姉もいない・・・
ゼーレ自身にも・・・価値なんて存在しません・・・
・・・Vectorは少しの間ゼーレを見つめた
Vector:
それは・・・どういう・・・?
ゼーレ:
Vectorさん、背後の通路が塞がれて!
Vector:
・・・!
・・・Vectorが振り返る。脱出経路は崩壊し、完全に閉塞していた。
Vector:
最高ね・・・
・・・Vectorは観念したように手を広げ、再び死士達へ銃口を向けた。
Vector:
あの嵐で崩壊したのか・・・
ごめんなさいゼーレさん、完全に想定外でした。まさかこの通路が私たちに死を運んで来るなんて・・・
ゼーレ:
Vectorさん・・・諦めるんですか・・・?
Vector:
申し訳ありません、私は意志の弱い人形なので。
・・・ダダダンッ!
ゼーレ:
Vectorさんは・・・PP90さんと、また会いたくないのですか?
Vector:
分からない・・・
ただ、あなたを巻き込んでしまったことだけが心残りです。
それを除けば・・・ここで死ぬのも悪くない。
・・・ダダダンッ!
Vector:
・・・ゼーレは私が嫌いですか?
私は、約束を守れませんでした、あなたを安全な場所に連れて行く約束を・・・
ゼーレ:
・・・いいえ。
ゼーレは・・・これでいいです・・・
そう、これで・・・
ゼーレ:
すぐに・・・Vectorの願いは叶いますよ。
Vector:
・・・・・・?
・・・Vectorはゼーレが微笑を浮かべていることに気付いた。
??:
ねぇ!Vivi!ゼーレさん!
そこにいるの!
Vector:
PP90、あなたなの!?
PP90:
Viviーー!!
やっぱりあなた、この通路を通ってきたのね!!
あ、ゴメン。この名前で呼んじゃって・・・
Vector:
そんなことはいいから!早く私たちを助けて!
こっちは緊急事態なの!あなた以外に救援部隊もいるんでしょ!
PP90:
救援は私だけよ!けど爆薬をいっぱい持ってきた!
すぐ起爆するからそこから離れて!
Vector:
離れろ!?こっちは死士が目の前まで迫ってるのよ!
PP90:
何とか方法を考えて!この閉塞部がどれだけの厚さか分からないの!
爆風からゼーレを守ってあげて!
・・・ピーッ
・・・起爆警告音が鳴り響く
Vector:
待って!こっちはまだー!
・・・ズガァァン!!!
・・・・・・
・・・・・・・・・
Vector:
ゲホッゲホッ・・・
PP90!あいつ・・・!
ゼーレ・・・ゲホッ・・・大丈夫?
ゼーレ:
ゼーレは無事です、Vectorさんが守ってくれました・・・
Vector:
私の背中に、ゲホッ・・・
PP90!このバカ!死ぬとこだったじゃない!
PP90:
ゲホ・・・ゾンビに殺されるよりはましでしょ!
早く私の手を掴んで!
Vector:
まずゼーレを先に!
ゼーレ:
Vectorさん、後ろ!
・・・ダダダンッ!
PP90:
私がカバーするから!さあ早く!
・・・PP90の援護の下、ゼーレとVectorは障害物を乗り越えた
Vector:
穴を塞いで!死士達が入ってくる!
PP90:
もうやってる!早く手伝って!
Vector:
分かってるから!ゼーレも手伝って!
・・・3人は慌ただしく隙間を封鎖した
・・・死地から逃れた3人は、壁越しに聞こえるうめき声を背にようやく一息ついた
Vector:
はぁ・・・はぁ・・・
一体なにをやってるの、この馬鹿人形・・・

PP90:
それが命の恩人に対する発言?
・・・PP90がVectorをビンタした
Vector:
痛っ・・・
PP90:
痛覚センサーが機能してるって事は、体は無事みたいね。
そしてマインドマップも!ところでさっき散々騒いでたけど、あなた本当にVec・・・いや、Viviなの?
Vector:
あなた・・・とても嬉しそうね。
PP90:
ええ!それは勿論!
すっごく嬉しいわ!
・・・PP90はVectorを正面から見つめた
PP90:
あなたが・・・無事に生きてたから・・・・・・
Vector:
・・・・・・
そう、私はただ、この言葉を確認したかったんだ・・・
PP90:
ん?何の話?私に何か伝えたいことがあったの?
Vector:
(ため息をつく)ひとまず、まだ危険なことに変わりないわ。
PP90:
ヘヘッ、準備ができたら移動しましょ。
PP90:
ああそうだそうだ、忘れるとこだった。
あなたがゼーレさんですか?
ゼーレ:
・・・はい。
あなた・・・PP90さんですよね?
PP90:
ええ、はい。知っていらしたのですか?
ゼーレ:
Vectorさんが言ってました。
あなたが・・・Vectorさんの言ってた・・・友達ね・・・
Vector:
ちょっと、ゼーレ・・・
PP90:
え・・・本当ですか?
ゼーレさん、Viviはなんと言ってたのですか?
ゼーレ:
Vectorさんの言ったとおり、あなたはブローニャ姉にそっくりです・・・
PP90:
ヘヘッ、ブローニャさんもそうおっしゃってました。
ああそうだ、ブローニャさんは私たちの拠点にいます。
すぐにお会いできますし、その後元の世界に戻れますよ!
・・・PP90はゼーレに手を差し出した。
・・・・・・
・・・が、ゼーレは反応しなかった。
PP90:
・・・ゼーレ、さん?
ゼーレ:
・・・そうね。もうすぐ会えるわ。
Vector:
ゼーレ・・・?
ゼーレ:
見れば見るほど、あなたとブローニャ姉は瓜二つね・・・
髪型だけじゃ無い・・・目に浮かぶ欲求、孤独、そして友達を欲するところ・・・
本当にブローニャ姉みたい・・・
PP90:
あの・・・一体、何を言ってるのですか?
Vector:
ゼーレ、どうしたの?
落ち着いて、心を穏やかに・・・
ゼーレ:
PP90さん・・・
あなた、どれだけの人間を殺傷しましたか?
Vector:
・・・・・・
PP90:
私たちは人類に奉仕するため生まれた戦術人形です。人間に害は与えません。
ゼーレ:
フフフッ・・・
・・・暗闇の中、ゼーレの笑い声だけが広がっていく

ゼーレ?:
知っていますか?
体の大部分は人間ですが、ブローニャ姉もかつては人形のようでした・・・
ブローニャ姉のあげた「戦果」・・・知りたくないですか?
PP90:
ゼーレさん、一体何を言ってるのですか・・・?
それに・・・何の関係が?
ゼーレ?:
だから、あなたみたいな人形の存在が許せない・・・
ブローニャ姉にそっくりな顔、その顔で気持ち悪い笑顔を振りまくなんて。
何も知らないくせに・・・厚かましく他人を慰めようとする恥知らずめ。
Vector:
ゼーレ!一体どうしたの!
・・・Vectorは銃を構えた。
ゼーレ?:
お遊びの時間は終わりです・・・
Vector:
何を・・・?
ゼーレ
あなたたちみたいな人形相手に、ゼーレは・・・これ以上耐えられません・・・
「優しいゼーレ」を演じるの時間は終わりです、ゼーレはもう我慢できません!!
Vector:
PP90、気をつけて!
・・・Vectorはゼーレに対し発砲した!
・・・しかし、その場所には何も無く・・・
Vector:
PP90!
・・・凄まじい風切り音が通路内に響き渡った。
・・・VectorがPP90を見たとき、彼女の体は鋭利な刃物で切り裂かれ、壁に叩きつけられていた。
PP90:
Vi・・・vi・・・
早・・・逃げ・・・
・・・PP90の体が崩れ落ちる。
・・・完全な静寂の中、Vectorは背後で何かが風を切る音を聞いた。
ゼーレ:
彼女さえいなくなれば、もうこの子のことを考える必要も無い・・・
・・・そうですよね?Vectorさん。
・・・バタン。
・・・Vectorも糸の切れた操り人形のごとく地面に倒れた。

ゼーレ:
お別れの時間です、Vectorさん。
こんなお遊戯、ゼーレは2度とやりたくありません。
Vector:
ゼー・・・レ・・・
あなた・・・最初から・・・
ゼーレ:
ええ、ゼーレはゼーレです。初めから終わりまでゼーレただ1人。
そう・・・闇から来た・・・「悪いゼーレ」
今までは全てゼーレの演技でした。「母様」の脚本通り。
Vector:
母・・・様・・・?
ゼーレ:
Vectorさんには関係の無いことですよ?
そして・・・あなたは本心からゼーレを心配してなかったですよね?
わたし、一生懸命演技しました。こんな落ちこぼれに、人から愛される価値なんて無いですから。
Vector:
なら・・・あなたは・・・どうして・・・
ゼーレ:
どうして?理由は簡単ですよ?
ゼーレ:
ゼーレは・・・大きな空洞です。
「愛」でいっぱいに満たしておかないと、全ての「愛」を飲み込んでしまう空洞・・・
あの人を・・・永遠にその中に入れておかない限り・・・
Vector:
・・・ブローニャ・・・
ゼーレ:
ゼーレには何も必要ない、ただブローニャ姉さえいてくれればいい・・・
あなたの世界も私たちの世界もどうでもいい、ただ邪魔なだけ。
Vectorさん、あなたにとってPP90にはそれだけの価値がありますか?
Vector:
・・・・・・
ゼーレ:
そんなわけ無いですよね、VectorさんにもPP90以上に望む物がたくさんありますよね?
もっと認められたいんでしょ?もっと賞賛されたいんでしょ?PP90なんてそれらを手に入れるための足がかりにすぎないんじゃ無いですか?
人形・・・人間に比べれば少しはマシだと思ってたけど、結局あなたも薄汚れた思考と手によって生み出されたゴミにすぎないです・・・
Vector:
あなた・・・ずっとそんな目で私たちを見てたの?
ゼーレ:
視界から外そうとすればするほど、より醜く見えるだけです。
・・・まさか、Vectorさんはゼーレが本心から励ましてると、本気でそう思ってたんですか?
ゼーレ:
笑わせないで下さい!これまでも笑いを抑えるのにどれだけ苦労してきたと思ってるんですか!
そう、ゼーレはこんな場所であなたが1人貪り食われるのを見たかっただけです。
Vector:
この・・・死士達も・・・
ゼーレ:
ええ、全てゼーレが引き寄せました。
ブローニャ姉にそっくりの三流ピエロが出てきた方が、ゼーレは面白いと思っただけです。
あなた・・・彼女と一緒に死ねて、悲しいですか・・・
それとも・・・嬉しいですか?
・・・ゼーレは通路の奥に歩んでいき、背後からは死士達のうめき声が近づいてくる。
ゼーレ:
どっちにしても・・・ゼーレは全く興味ないですけどね。
Vector:
クソッ・・・ゼーレ・・・
拠点に・・・行くな・・・!
ゼーレ:
ゼーレは・・・ただ願いを叶えたい。
かけがえのない唯一の願いを・・・
さようなら、Vector。その下品な欲望を抱えたまま、この世界と共に死んで下さい。
・・・ゼーレの姿は、通路の奥へと消えた。
・・・??分経過

キアナ:
ゼーレ!?ゼーレが帰ってきたの!?
ブローニャ:
お帰り、ゼーレ。
メイ:
ゼーレ、PP90とVectorは?どうして2人ともいないのかしら?
・・・さらに時間が経過
・・・グリフィン拠点にアラートが鳴り響いた
テレサ:
すぐにあの子を追いかけて!
姫子、時間が無い。すぐに「あれ」を使って!
姫子:
ここでですか??
テレサ:
今使わないと、基地がゼーレによって破壊される!
速く!!
・・・・・・
メイ:
ブローニャーー!!
Vector:
・・・・・・!
・・・Vectorはおぞましい叫び声で目を覚ました
・・・死士達は封鎖を突破し、彼女の背後に迫ってくる

Vector:
PP・・・90・・・
今まで・・・伝えられなかった言葉があるの・・・
今日は・・・本当に最悪の日よ・・・
けどもし、もしもあなたのことを何も知らなかったら、ここでありふれた死を受け入れたのかもしれないわ・・・
・・・Vectorは激痛に耐え立ち上がった
Vector:
今は、あなたのためだけに・・・
・・・絶対に生き延びてみせる・・・!
2-3 終
で、ブローニャ。
どうしてデストロイヤーを倒しちゃったわけ?
あいつを捕まえればグリフィンにとっても有益なはずだったのに。
ブローニャ:
メイ姉さんが言ってました。私たちはこの世界に過干渉すべきでないと。
キアナ:
はいはい、分かった分かった!けどこの状況をどうするつもり!
死士達が狂ったように拠点へ集まってるじゃない!絶対デストロイヤーの仇討ちをするつもりよ!
姫子:
いや、そうじゃない。むしろ逆なはずよ。
デストロイヤーの崩壊エネルギーが消えたせいで、死士達は制御を完全に失ってるんだわ。
キアナ:
ああ、もう!
よりによってこんな時に、ゼーレとVectorは何処へ消えたって言うの!
PP90:
信号消失ポイント自体は今いる拠点のかなり近くです。
けど、捜索範囲がかなり広いので・・・
メイ:
大丈夫、私たちで手分けして探せばいいわ。
姫子:
悪くない作戦だけど、この状況だと厳しいわね。
拠点に押し寄せるゾンビが多すぎる、1人で捜索するのは非常に危険よ。
PP90:
テレサさん、周囲の崩壊エネルギー発生源を取り除き、死士たちを止めることは可能でしょうか?
テレサ:
むむむ・・・完全に消しさるのは簡単じゃ無いわ。多分それまで、ゼーレとVectorが持ちこたえられないはず。
ブローニャ:
ブローニャなら、潜入工作が可能です。
姫子:
いや、私たちは外の地形・敵配置すら知らない状態よ。迂闊に飛び込むのは危険すぎるし、効率もよくない。
PP90:
なら私が行きます!このエリアならよく巡回してたので、地形も把握してます。
それに、Viviたち2人は信号の届かないところにいるはず。私なら近づきさえすれば、すぐに通信を取れますから!
キアナ:
けど、PP90だけで行く方が危険だわ。
姫子:
いや・・・調査結果によるとこの死士達は鉄血工廠製人形よ。何らかのコマンドを受けない限り、人形よりも人間に対する反応を優先する。そして人形は人間より気配を出さない、死士達にも感知されにくいはず。
メイ:
じゃあ、私たちは何をすれば?
PP90:
拠点は死士によって抱囲されてます。皆さんがグリフィンの代わりに拠点を守備していただくだけでも助かります。
テレサ:
その頼み、引き受けたわ。キアナ、例え死士一匹たりとも拠点に入れないように!
メイ:
けどまずはPP90のために道を切り開く必要があるわね。
キアナ:
分かった!まずはPP90を援護して、その後拠点を守ろう!
PP90はVectorとゼーレの行方を捜して!
PP90:
問題ありません、お任せ下さい!
メイ:
危なくなったらすぐに連絡してね。
ブローニャ:
もう1人のブローニャも、頑張って。
PP90:
エヘヘ・・・ブローニャさん、私も全力で行きます。安心して待ってて下さい!
姫子:
キアナ、目標地点までPP90をしっかりサポートしてちょうだい。
PP90:
はい!すぐにVectorとゼーレさんの位置を突き止めます、2人を探し出したらバックアップもお願いします!
テレサ:
残りの皆は拠点を死守するのよ。ゼーレとVectorを無事救出できれば、全て終わりなんだから!
・・・30分後
・・・ダダダンッ!

Vector:
ゼーレさん、まだ大丈夫ですか?
ゼーレ:
ゼーレは・・・大丈夫・・・です!
それよりもVectorさんが・・・
Vector:
あなたが無事でさえいれば、私は死にません。
心を落ち着かせて。深呼吸したり、数を数えたり、何か喋ってもいい。私のナイフを触る以外、好きなことで気を紛らわせて下さい!
ゼーレ:
はい・・・ゼーレ、ゼーレは分かりました!
・・・死士たちは際限なく集まってくる
Vector:
後ろに下がり続けて、もうすぐ地上に着くはずで・・・
ゼーレ:
Vectorさん!足下!!
・・・ダダンッ!
・・・Vectorは素早く反応、足下にいた死士を蹴り飛ばし、弾丸を2発ぶち込んだ。
Vector:
・・・
ありがとう・・・
ゼーレ:
何が、ですか?
Vector:
いいえ、ただお礼を言うのに慣れて無くて。
もしPP90が隣にいたら、前みたいな返答をしたのかもしれない。
ハハッ・・・あの時も、彼女の注意が無かったら・・・
ゼーレ:
その、信頼できるお友達がいるんですか?
Vector:
彼女は、あなたの言う「ブローニャ姉」にとても似ています。
けど正直とてもうるさかった。私は彼女みたいな人形が苦手でした。
誰にでも優しく、誰もが好意を向ける、八方美人な人形・・・ゼーレさん、足を止めないで!下がり続けて!
・・・Vectorは弾幕を張りつつ、ゼーレとともにトンネルの奥へと後退していく
・・・死士の攻勢が少し弱くなってきた
ゼーレ:
Vectorさんは、その人が嫌いなの?
Vector:
多分、私が嫌いなのは、私自身・・・
私がかけるべき言葉が「ありがとう」なのか「ゴメン」なのか、それすら分からない・・・
ゼーレ:
ゼーレ、とてもよく分かります。
Vectorさんも、ゼーレと・・・よく似てる・・・
Vector:
・・・
とにかく、早く出口に向かいましょう。今のことは、忘れて。
・・・ダダダンッ!ダダダンッ!
ゼーレ:
・・・ゼーレは、戻りたくないです。早くブローニャ姉と会って、そしてこの世界にずっといたい・・・
Vector:
ここにいるべきではありません、この世界は混乱と絶望に満ちています。
ゼーレ:
ゼーレの世界より、遙かにマシ。あの世界には何も無い・・・
Vector:
え?
あなたには・・・多くの友達がいるのでは?
ゼーレ:
いいえ、ゼーレには何もありません・・・
「家」も無い・・・ブローニャ姉もいない・・・
ゼーレ自身にも・・・価値なんて存在しません・・・
・・・Vectorは少しの間ゼーレを見つめた
Vector:
それは・・・どういう・・・?
ゼーレ:
Vectorさん、背後の通路が塞がれて!
Vector:
・・・!
・・・Vectorが振り返る。脱出経路は崩壊し、完全に閉塞していた。
Vector:
最高ね・・・
・・・Vectorは観念したように手を広げ、再び死士達へ銃口を向けた。
Vector:
あの嵐で崩壊したのか・・・
ごめんなさいゼーレさん、完全に想定外でした。まさかこの通路が私たちに死を運んで来るなんて・・・
ゼーレ:
Vectorさん・・・諦めるんですか・・・?
Vector:
申し訳ありません、私は意志の弱い人形なので。
・・・ダダダンッ!
ゼーレ:
Vectorさんは・・・PP90さんと、また会いたくないのですか?
Vector:
分からない・・・
ただ、あなたを巻き込んでしまったことだけが心残りです。
それを除けば・・・ここで死ぬのも悪くない。
・・・ダダダンッ!
Vector:
・・・ゼーレは私が嫌いですか?
私は、約束を守れませんでした、あなたを安全な場所に連れて行く約束を・・・
ゼーレ:
・・・いいえ。
ゼーレは・・・これでいいです・・・
そう、これで・・・
ゼーレ:
すぐに・・・Vectorの願いは叶いますよ。
Vector:
・・・・・・?
・・・Vectorはゼーレが微笑を浮かべていることに気付いた。
??:
ねぇ!Vivi!ゼーレさん!
そこにいるの!
Vector:
PP90、あなたなの!?
PP90:
Viviーー!!
やっぱりあなた、この通路を通ってきたのね!!
あ、ゴメン。この名前で呼んじゃって・・・
Vector:
そんなことはいいから!早く私たちを助けて!
こっちは緊急事態なの!あなた以外に救援部隊もいるんでしょ!
PP90:
救援は私だけよ!けど爆薬をいっぱい持ってきた!
すぐ起爆するからそこから離れて!
Vector:
離れろ!?こっちは死士が目の前まで迫ってるのよ!
PP90:
何とか方法を考えて!この閉塞部がどれだけの厚さか分からないの!
爆風からゼーレを守ってあげて!
・・・ピーッ
・・・起爆警告音が鳴り響く
Vector:
待って!こっちはまだー!
・・・ズガァァン!!!
・・・・・・
・・・・・・・・・
Vector:
ゲホッゲホッ・・・
PP90!あいつ・・・!
ゼーレ・・・ゲホッ・・・大丈夫?
ゼーレ:
ゼーレは無事です、Vectorさんが守ってくれました・・・
Vector:
私の背中に、ゲホッ・・・
PP90!このバカ!死ぬとこだったじゃない!
PP90:
ゲホ・・・ゾンビに殺されるよりはましでしょ!
早く私の手を掴んで!
Vector:
まずゼーレを先に!
ゼーレ:
Vectorさん、後ろ!
・・・ダダダンッ!
PP90:
私がカバーするから!さあ早く!
・・・PP90の援護の下、ゼーレとVectorは障害物を乗り越えた
Vector:
穴を塞いで!死士達が入ってくる!
PP90:
もうやってる!早く手伝って!
Vector:
分かってるから!ゼーレも手伝って!
・・・3人は慌ただしく隙間を封鎖した
・・・死地から逃れた3人は、壁越しに聞こえるうめき声を背にようやく一息ついた
Vector:
はぁ・・・はぁ・・・
一体なにをやってるの、この馬鹿人形・・・

PP90:
それが命の恩人に対する発言?
・・・PP90がVectorをビンタした
Vector:
痛っ・・・
PP90:
痛覚センサーが機能してるって事は、体は無事みたいね。
そしてマインドマップも!ところでさっき散々騒いでたけど、あなた本当にVec・・・いや、Viviなの?
Vector:
あなた・・・とても嬉しそうね。
PP90:
ええ!それは勿論!
すっごく嬉しいわ!
・・・PP90はVectorを正面から見つめた
PP90:
あなたが・・・無事に生きてたから・・・・・・
Vector:
・・・・・・
そう、私はただ、この言葉を確認したかったんだ・・・
PP90:
ん?何の話?私に何か伝えたいことがあったの?
Vector:
(ため息をつく)ひとまず、まだ危険なことに変わりないわ。
PP90:
ヘヘッ、準備ができたら移動しましょ。
PP90:
ああそうだそうだ、忘れるとこだった。
あなたがゼーレさんですか?
ゼーレ:
・・・はい。
あなた・・・PP90さんですよね?
PP90:
ええ、はい。知っていらしたのですか?
ゼーレ:
Vectorさんが言ってました。
あなたが・・・Vectorさんの言ってた・・・友達ね・・・
Vector:
ちょっと、ゼーレ・・・
PP90:
え・・・本当ですか?
ゼーレさん、Viviはなんと言ってたのですか?
ゼーレ:
Vectorさんの言ったとおり、あなたはブローニャ姉にそっくりです・・・
PP90:
ヘヘッ、ブローニャさんもそうおっしゃってました。
ああそうだ、ブローニャさんは私たちの拠点にいます。
すぐにお会いできますし、その後元の世界に戻れますよ!
・・・PP90はゼーレに手を差し出した。
・・・・・・
・・・が、ゼーレは反応しなかった。
PP90:
・・・ゼーレ、さん?
ゼーレ:
・・・そうね。もうすぐ会えるわ。
Vector:
ゼーレ・・・?
ゼーレ:
見れば見るほど、あなたとブローニャ姉は瓜二つね・・・
髪型だけじゃ無い・・・目に浮かぶ欲求、孤独、そして友達を欲するところ・・・
本当にブローニャ姉みたい・・・
PP90:
あの・・・一体、何を言ってるのですか?
Vector:
ゼーレ、どうしたの?
落ち着いて、心を穏やかに・・・
ゼーレ:
PP90さん・・・
あなた、どれだけの人間を殺傷しましたか?
Vector:
・・・・・・
PP90:
私たちは人類に奉仕するため生まれた戦術人形です。人間に害は与えません。
ゼーレ:
フフフッ・・・
・・・暗闇の中、ゼーレの笑い声だけが広がっていく

ゼーレ?:
知っていますか?
体の大部分は人間ですが、ブローニャ姉もかつては人形のようでした・・・
ブローニャ姉のあげた「戦果」・・・知りたくないですか?
PP90:
ゼーレさん、一体何を言ってるのですか・・・?
それに・・・何の関係が?
ゼーレ?:
だから、あなたみたいな人形の存在が許せない・・・
ブローニャ姉にそっくりな顔、その顔で気持ち悪い笑顔を振りまくなんて。
何も知らないくせに・・・厚かましく他人を慰めようとする恥知らずめ。
Vector:
ゼーレ!一体どうしたの!
・・・Vectorは銃を構えた。
ゼーレ?:
お遊びの時間は終わりです・・・
Vector:
何を・・・?
ゼーレ
あなたたちみたいな人形相手に、ゼーレは・・・これ以上耐えられません・・・
「優しいゼーレ」を演じるの時間は終わりです、ゼーレはもう我慢できません!!
Vector:
PP90、気をつけて!
・・・Vectorはゼーレに対し発砲した!
・・・しかし、その場所には何も無く・・・
Vector:
PP90!
・・・凄まじい風切り音が通路内に響き渡った。
・・・VectorがPP90を見たとき、彼女の体は鋭利な刃物で切り裂かれ、壁に叩きつけられていた。
PP90:
Vi・・・vi・・・
早・・・逃げ・・・
・・・PP90の体が崩れ落ちる。
・・・完全な静寂の中、Vectorは背後で何かが風を切る音を聞いた。
ゼーレ:
彼女さえいなくなれば、もうこの子のことを考える必要も無い・・・
・・・そうですよね?Vectorさん。
・・・バタン。
・・・Vectorも糸の切れた操り人形のごとく地面に倒れた。

ゼーレ:
お別れの時間です、Vectorさん。
こんなお遊戯、ゼーレは2度とやりたくありません。
Vector:
ゼー・・・レ・・・
あなた・・・最初から・・・
ゼーレ:
ええ、ゼーレはゼーレです。初めから終わりまでゼーレただ1人。
そう・・・闇から来た・・・「悪いゼーレ」
今までは全てゼーレの演技でした。「母様」の脚本通り。
Vector:
母・・・様・・・?
ゼーレ:
Vectorさんには関係の無いことですよ?
そして・・・あなたは本心からゼーレを心配してなかったですよね?
わたし、一生懸命演技しました。こんな落ちこぼれに、人から愛される価値なんて無いですから。
Vector:
なら・・・あなたは・・・どうして・・・
ゼーレ:
どうして?理由は簡単ですよ?
ゼーレ:
ゼーレは・・・大きな空洞です。
「愛」でいっぱいに満たしておかないと、全ての「愛」を飲み込んでしまう空洞・・・
あの人を・・・永遠にその中に入れておかない限り・・・
Vector:
・・・ブローニャ・・・
ゼーレ:
ゼーレには何も必要ない、ただブローニャ姉さえいてくれればいい・・・
あなたの世界も私たちの世界もどうでもいい、ただ邪魔なだけ。
Vectorさん、あなたにとってPP90にはそれだけの価値がありますか?
Vector:
・・・・・・
ゼーレ:
そんなわけ無いですよね、VectorさんにもPP90以上に望む物がたくさんありますよね?
もっと認められたいんでしょ?もっと賞賛されたいんでしょ?PP90なんてそれらを手に入れるための足がかりにすぎないんじゃ無いですか?
人形・・・人間に比べれば少しはマシだと思ってたけど、結局あなたも薄汚れた思考と手によって生み出されたゴミにすぎないです・・・
Vector:
あなた・・・ずっとそんな目で私たちを見てたの?
ゼーレ:
視界から外そうとすればするほど、より醜く見えるだけです。
・・・まさか、Vectorさんはゼーレが本心から励ましてると、本気でそう思ってたんですか?
ゼーレ:
笑わせないで下さい!これまでも笑いを抑えるのにどれだけ苦労してきたと思ってるんですか!
そう、ゼーレはこんな場所であなたが1人貪り食われるのを見たかっただけです。
Vector:
この・・・死士達も・・・
ゼーレ:
ええ、全てゼーレが引き寄せました。
ブローニャ姉にそっくりの三流ピエロが出てきた方が、ゼーレは面白いと思っただけです。
あなた・・・彼女と一緒に死ねて、悲しいですか・・・
それとも・・・嬉しいですか?
・・・ゼーレは通路の奥に歩んでいき、背後からは死士達のうめき声が近づいてくる。
ゼーレ:
どっちにしても・・・ゼーレは全く興味ないですけどね。
Vector:
クソッ・・・ゼーレ・・・
拠点に・・・行くな・・・!
ゼーレ:
ゼーレは・・・ただ願いを叶えたい。
かけがえのない唯一の願いを・・・
さようなら、Vector。その下品な欲望を抱えたまま、この世界と共に死んで下さい。
・・・ゼーレの姿は、通路の奥へと消えた。
・・・??分経過

キアナ:
ゼーレ!?ゼーレが帰ってきたの!?
ブローニャ:
お帰り、ゼーレ。
メイ:
ゼーレ、PP90とVectorは?どうして2人ともいないのかしら?
・・・さらに時間が経過
・・・グリフィン拠点にアラートが鳴り響いた
テレサ:
すぐにあの子を追いかけて!
姫子、時間が無い。すぐに「あれ」を使って!
姫子:
ここでですか??
テレサ:
今使わないと、基地がゼーレによって破壊される!
速く!!
・・・・・・
メイ:
ブローニャーー!!
Vector:
・・・・・・!
・・・Vectorはおぞましい叫び声で目を覚ました
・・・死士達は封鎖を突破し、彼女の背後に迫ってくる

Vector:
PP・・・90・・・
今まで・・・伝えられなかった言葉があるの・・・
今日は・・・本当に最悪の日よ・・・
けどもし、もしもあなたのことを何も知らなかったら、ここでありふれた死を受け入れたのかもしれないわ・・・
・・・Vectorは激痛に耐え立ち上がった
Vector:
今は、あなたのためだけに・・・
・・・絶対に生き延びてみせる・・・!
2-3 終
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