ペルシカからの報告:
これで最終段階よ、あの子なら…もう準備ができているはず…

これで最終段階よ、あの子なら…もう準備ができているはず…

…
少女:
ママ、そこに行けば…本当に毎日お腹いっぱい食べられるの?
成人女性:
そうよ、可愛い子ちゃん。
毎日3食お腹いーっぱい食べられるし、その上怖いモンスターもいないんだから。
少女の声:
本当に!すごい!!
M4A1:
これは…何……?
わたしが見ているこの光景は…一体何なの?
澄んだ女性の声:
これはある人間の記憶…
静かにして、横から見ているだけでいいわ。
男:
おい、走れ!早く逃げるんだ!空襲だ!空襲が来るぞ!
少女:
ママ!ママ!どこにいるの!
……ズガン!!!
……
老婦人:
今日から、あなたはここに住んでもらうわ。
可哀想な娘、両親に起きたことは本当に同情するよ…
けど分かってちょうだい、この世界では…働かなければ食べていけないのよ。
少女:
はい…分かってます…
パパ…ママ…どうして、どうしてっ……
……
浮浪者の男:
おう、そこのガキ。
なんで毎日毎日ここに来て、そこの警備会社の敷地を覗いてんだ?
少女:
別に…ただ通り道なだけ…
浮浪者の男:
…聞くところによると、ここには警備会社の重役がいるらしい。
確か…この前難民の誤爆事件があったな。本当に悲しい出来事だ…
噂によると、その作戦はここの重役が指揮していたらしいな。
少女:
……!
浮浪者の男:
もちろん、この話を聞いただけでは何もできないさ。
だが、こいつがあれば話は違う。
少女:
……!拳銃!けど、わたしにはお金なんて…
浮浪者の男:
ハハハッ。いいか、金以外にも支払う手段ってのはあるんだよ。
どうだ?条件を聞いてみるか?
M4A1:
拳銃…?どうしてそんな物を欲しがるのです?
澄んだ女性の声:
復讐。そう、家族のための…復讐です。
M4A1:
分からない…彼女の判断は無謀すぎる。この行為に何の意味があるというの?
澄んだ女性の声:
おそらくあなたには理解できないでしょう…
けど…わたしには分かります。
……
兵士:
聞いたか?最近警備会社役員を狙ったテロが多発しているそうだ。
だから俺たちにこんな仕事が回されてるのか。
兵士:
…止まれ、そこの小娘。ここから先は警戒エリアだ、何をしに来た?
少女:
パンを届けに来ました、前回にも約束しましたが…
兵士:
今日は君が担当なのか?よし、入れ。
……
中年男性:
おい、何をする気だ!
少女:
悪魔の仲間め…地獄に落ちろ!
……銃声が響いた
騒がしい声:
見つけたぞ!早く逃げて下さい!撃つんだ、早く!
……!
兵士:
目標に命中!警戒しつつ確認しろ!
兵士:
待て…こいつ…まだガキだぞ!
少女:
……パパ…ママ…
これで、いいんだよね…
……
気怠げな女性:
そう…ここでそんなことが起きてたなんて…
…ほーう、この子にはまだ使い道がありそうだね。
どうだろう、わたしに任せてくれないか?ちょうどラボで必要な被験者が1人足りなくてね。
M4A1:
…この娘は…その後どうなったの?
澄んだ女性の声:
心配なの?
M4A1:
分からない…わたしはただ知りたいの…彼女は、死んでしまったの?
澄んだ女性の声:
死なないわ、自らの意思を果たすまでね…
M4A1:
…あなたは…一体誰なの?
澄んだ声:
…覚えてないかしら?
私たちは…もう既に出会っているはずよ…
M4A1:
…………!
……S02区、鉄血指揮室
デストロイヤー:
ドリーマー、何してるのよ!グリフィンの部隊がもう指揮室まで攻め込んで来てるのに!
早くその飛び回る無敵の武器を使って追っ払ってよ!!
ドリーマー:
落ち着きなさい、デストロイヤー。まだ慌てるような時間じゃ無いわ…
デストロイヤー:
ハァ?!私たちの基地が陥落しそうになってるのよ!
ここがどれだけ重要か、あなたが知らないはず無いでしょ!
ドリーマー:
けどー、ここはあんたの基地でしょ?わたしには関係ないわね。
…ドリーマーは椅子から立ち上がった。
デストロイヤー:
ちょちょっと!ドリーマー、どこに行くの!
ドリーマー:
代理人…新たな命令が来たわ、所定箇所で待機せよですって。
はぁーっ…めんどくさい、ただ人に会うためだけに動かないとなんて…
こんなことより、何かを破壊する方がよっぽど有意義だわ。
デストロイヤー:
そ、そう!そうよ!せっかく時間があるなら、まずわたしを助けるのがいいんじゃ無いかな!
ドリーマー:
そうね…
確かにこの状況で出かけるのは、ちょっと面倒ね。
少し邪魔なゴミ共を片付けましょうか…あんた、わたしについてきなさい。
デストロイヤー:
え?わたしも?だけど指揮室が…
ちょ、ちょっと待ってよ!ドリーマー!
ドリーマー:
早くゴミ共を掃除しないと。(小声で)こういう時は…ゴミをおびき寄せる餌が必要よね…
フフフ…
……
…
M16A1:
…ペル…シカ。
ファイルを…全て取り込んだ。
ペルシカ:
…よくやったわ、M16。
ドローンを使って16LABに送ってちょうだい。
M16A1:
もう送ったさ、あなたがくれた装備と一緒にね…
結局、わたしは一度も使わなかった。M4A1も使わないことを祈るよ…
ペルシカ:
…それは彼女が判断することよ。
M16A1:
はっ、そうだな…あいつは賢いからな…
いや、少し賢すぎると言うべきか。優柔不断なAIは指揮する側として不適格だが、開発段階でリーダー適性を最適化するべきだったんじゃないか。
あるいは、わたしがもっと厳しく接するべきだったのか…残念だけどもうその機会は、無いんだろ…
ペルシカ:
おそらく…けど、あなたはまだ彼女の助けになっている。
分かるかしら…M4はわたしのすぐ後ろにいる。あなたの言葉をそっくりそのまま彼女のマインドマップへ入力しているの。
M16A1:
なぜそんなことを?
ペルシカ:
マインドマップを安定させる為よ。
今、彼女にかけらえているリミッターを解除しているの。機械的に強制解除を行えば、マインドマップが破壊されるかもしれない。
あなたの声は彼女を落ち着かせ、安定させる。AIの人格を修復・調整するには必要不可欠なのよ。
M16A1:
リミッター?調整?さっぱり分からないな…
ペルシカ:
M4A1…今回は、ただ彼女を覚醒させるわけじゃない。
彼女が目を覚ましたなら、これまで以上に信頼でき…強力な人形になる…
…それこそ…彼女の本来の姿よ。
M16A1:
そうか…M4A1がそうなるなんて、想像もつかないな。
惜しいことに…わたしは、その姿を見れそうに無い…
ペルシカ:
M16A1、後悔してる?
M16A1:
後悔する理由がどこにある?これは大きな成果だ。
あいつの存在は、わたしなんかよりもっと重要というだけ…
M16A1:
くそっ…
ペルシカ:
どうしたの?あなた、マインドマップが…不安定化してる。
M16A1:
頭の中が…痛み始めた…
微弱な刺激だ、激しくは無い。ただ苛つくな…これが、【傘】によってマインドマップが書き換えられる兆候なのか?
ペルシカ:
おそらく…けど、AR15はそんなこと報告してなかった。
M16A1:
だろうな、報告するとは思えん。あいつは…仲間思いで、強いからな。
それから…通信チャンネルにノイズがかかってきた…
ペルシカ:
鉄血がモジュール部を書き換えてるのね、チャンネルにも影響を与えるのか。
わたしの声も、直に聞こえなくなるわ…
M16A1:
そうか…M4A1に最後の言葉を伝えてもいいだろうか?
ペルシカ:
同期はまだ切れてない、別れを告げたいなら今やりましょう。
M16A1:
ははっ、わたしの声であいつが目覚める?まるでおとぎ話だな。
ペルシカ:
何を伝える?
…M16はしばらく沈黙した。
M16A1:
M4…わたしが帰るまで待っててくれ。
例え、わたしがどんな姿になったとしても…
ペルシカ
M16…
M16A1:
はっ、少し恥ずかしいな…
けどわたしが伝えたいのは、これだけさ…
M4とのリンクが途切れ、M16は地面に倒れ込んだ。
M16A1:
これで、わたしの使命は終わったのか?ようやくゆっくり休める。
まだ自我が残ってるあいだに、最後の挨拶でも…
M4A1:
M16…
M16A1:
……!
M4A1:
M16…
行か…で
ペルシカ:
……!
M4A1:
M16…行かないで…!
M16A1ーー!!
暗闇の中、自らを見失っていたわたしは遂に希望を見つけた。
わたしがいつも追いかけ、そして信頼していた人、その影が遠くで微かに燃えている。あれこそ、わたしが探していた物…
わたしが追いかけると炎は急速に大きくなり、そして強烈な光を放った…
光は天井のライトへと変わり…わたしは遂に終わることの無い夢から現実へ戻ってきた。

M4A1:
ハッ…!ハァ…!ハァ…!
ペルシカ:
M4A1…あなた、ついに…
M4A1:
わたし…ここは…?
ペルシカ:
あなたの家よ、M4。よく、よく戻ってきてくれた…
M4A1:
そうなの…ようやく…それで、ペルシカ…さん。
…M16は?
わたし、彼女の声を聞いたの…
ペルシカ:
M16…彼女は、任務を遂行中よ…しばらく戻ってこないわ…
M4A1:
そんな…会いたい…彼女に、会いたいです…!
M16A1:
そうか…M4、再会するには、長い時間が…
通信チャンネルがノイズに覆われ、信号が完全に遮断された。遂に別れの時が来たのか、皆を残したまま…
立ち上がり体についた汚れを払い落とす。なぜだろうか、この部屋に少し愛着が湧いていた。記憶領域が消えているからじゃ無い。なぜならここは、最後の挨拶をした場所なのだから…
【傘】に感染し、盗聴、監視され、情報をリークする存在となってしまったわたしは…一体どうなってしまうのか?瞬間、わたしの心に浮かんだのは自身でも他の誰でも無く、AR15だった…あいつなら…こんな時何を考えてたんだろうな…
もう思考することすらできない…重く息を吐き、自身の名と同じ武器をしっかりつかんだ。古い鉄扉がきしむ音だけをを残し、わたしは部屋を出た。
「善良な市民が朝目覚めたとき、今日という日が人生最後の日になるなんて夢にも思わないだろう」
時には全てを失った方が、物事は簡単になるのかもしれない…
…バタン!
もう、四肢を動かすことすら、できない…わたしは電池の切れたロボットのように地面へ倒れ込んだ。
どうやら、これまでのようだ…
あとは…ただ己の運命を待つだけ…
……
M16A1:
歌…声?
澄んだ女性の声が耳に入って来たが、もはやどこから音が流れているかすら判別できない。
ただ聞いているのも悪くないだろう…もはやこれ以上、動くこともできない…
M16A1:
いい歌だな…
わたしも遂に…「夢」というものを見るのか…
ドリーマー:
違うね、M16A1。これは夢でも幻覚でも無い。
あんたは鉄血の深層ネットワークへ接続されたんだろう。

M16A1:
…ドリー…マー…
ドリーマー:
ああ、わたしはね…こんな仕事をするのはとても、とってもイヤなんだけど…
いきなり夜勤当直をさせられるみたいで、ホントに不快だわ…
M16A1:
何故…銃、を…向けない…?
ドリーマー:
ビビらないでよ。ねぇ、あんたに面白いことを教えてあげる。
さっきねぇ、ドローンが1機飛んでるのを見つけたの…そう、まるで狙ってくれと言わんばかりにね…
M16A1:
お前…何を?!
M16A1:
撃墜はしたけど、墜落地点の確認までする義務は無いからねぇ。どちらが先に手に入れるか、わたしも今から楽しみだわ。
もちろん、今のあなたにはどうにもできないけどね。
M16A1:
はっ…甘く見るなよ…わたしたちの、指揮官をな…
ドリーマー:
正直ね、それがどうなろうとわたしにとってはどうでもいいことよ。
M16A1:
ならば…なぜ…ここに?
ドリーマー:
正確に言うと、わたしたちのエルダーブレインがあなたに会いたいって。
M16A1:
ああ?どこに、いるって言うんだ…?
ドリーマー:
ここにはいないわ…あのお方は、あなたの「心の中」にいる…
もう、聞こえているはずよ?
M16A1:
……!
翌日、グリフィン本部
ヘリアン:
よく来て下さいました、クルーガーさん。昨晩の問題は全て解決しましたか?
クルーガー:
ああ、ペルシカのおかげで何とかな。
だが、これで終わりでは無い。軍からの圧力は更に強くなるだろう。
ヘリアン:
それで、クルーガーさん…M16A1についてですが…
クルーガー:
この犠牲を無駄にはできない。
指揮官に伝えてくれ。作戦に参加した人形のケア、並びにマインドマップを注視するようにな。
ヘリアン:
分かりました。ただ、1つだけ言わせて下さい。AR小隊のマインドクラウドはこのような状況下に最適と言えないのでは?
クルーガー:
あらゆる物に存在意義があるのだ、ヘリアン。ここは戦場だ、それ以上に優先すべきことが多々ある。
わたしはオフィスに戻る。以前策定した作戦計画を見直す必要があるからな。
ヘリアン:
はい…
クルーガーさん、鉄血との決戦が…もうすぐ始まるのですか?
クルーガー:
可能な限り早く準備をするんだ…
クルーガー:
少なくとも、遠くない未来には…
8-4E ピルグリムⅣ
終
少女:
ママ、そこに行けば…本当に毎日お腹いっぱい食べられるの?
成人女性:
そうよ、可愛い子ちゃん。
毎日3食お腹いーっぱい食べられるし、その上怖いモンスターもいないんだから。
少女の声:
本当に!すごい!!
M4A1:
これは…何……?
わたしが見ているこの光景は…一体何なの?
澄んだ女性の声:
これはある人間の記憶…
静かにして、横から見ているだけでいいわ。
男:
おい、走れ!早く逃げるんだ!空襲だ!空襲が来るぞ!
少女:
ママ!ママ!どこにいるの!
……ズガン!!!
……
老婦人:
今日から、あなたはここに住んでもらうわ。
可哀想な娘、両親に起きたことは本当に同情するよ…
けど分かってちょうだい、この世界では…働かなければ食べていけないのよ。
少女:
はい…分かってます…
パパ…ママ…どうして、どうしてっ……
……
浮浪者の男:
おう、そこのガキ。
なんで毎日毎日ここに来て、そこの警備会社の敷地を覗いてんだ?
少女:
別に…ただ通り道なだけ…
浮浪者の男:
…聞くところによると、ここには警備会社の重役がいるらしい。
確か…この前難民の誤爆事件があったな。本当に悲しい出来事だ…
噂によると、その作戦はここの重役が指揮していたらしいな。
少女:
……!
浮浪者の男:
もちろん、この話を聞いただけでは何もできないさ。
だが、こいつがあれば話は違う。
少女:
……!拳銃!けど、わたしにはお金なんて…
浮浪者の男:
ハハハッ。いいか、金以外にも支払う手段ってのはあるんだよ。
どうだ?条件を聞いてみるか?
M4A1:
拳銃…?どうしてそんな物を欲しがるのです?
澄んだ女性の声:
復讐。そう、家族のための…復讐です。
M4A1:
分からない…彼女の判断は無謀すぎる。この行為に何の意味があるというの?
澄んだ女性の声:
おそらくあなたには理解できないでしょう…
けど…わたしには分かります。
……
兵士:
聞いたか?最近警備会社役員を狙ったテロが多発しているそうだ。
だから俺たちにこんな仕事が回されてるのか。
兵士:
…止まれ、そこの小娘。ここから先は警戒エリアだ、何をしに来た?
少女:
パンを届けに来ました、前回にも約束しましたが…
兵士:
今日は君が担当なのか?よし、入れ。
……
中年男性:
おい、何をする気だ!
少女:
悪魔の仲間め…地獄に落ちろ!
……銃声が響いた
騒がしい声:
見つけたぞ!早く逃げて下さい!撃つんだ、早く!
……!
兵士:
目標に命中!警戒しつつ確認しろ!
兵士:
待て…こいつ…まだガキだぞ!
少女:
……パパ…ママ…
これで、いいんだよね…
……
気怠げな女性:
そう…ここでそんなことが起きてたなんて…
…ほーう、この子にはまだ使い道がありそうだね。
どうだろう、わたしに任せてくれないか?ちょうどラボで必要な被験者が1人足りなくてね。
M4A1:
…この娘は…その後どうなったの?
澄んだ女性の声:
心配なの?
M4A1:
分からない…わたしはただ知りたいの…彼女は、死んでしまったの?
澄んだ女性の声:
死なないわ、自らの意思を果たすまでね…
M4A1:
…あなたは…一体誰なの?
澄んだ声:
…覚えてないかしら?
私たちは…もう既に出会っているはずよ…
M4A1:
…………!
……S02区、鉄血指揮室
デストロイヤー:
ドリーマー、何してるのよ!グリフィンの部隊がもう指揮室まで攻め込んで来てるのに!
早くその飛び回る無敵の武器を使って追っ払ってよ!!
ドリーマー:
落ち着きなさい、デストロイヤー。まだ慌てるような時間じゃ無いわ…
デストロイヤー:
ハァ?!私たちの基地が陥落しそうになってるのよ!
ここがどれだけ重要か、あなたが知らないはず無いでしょ!
ドリーマー:
けどー、ここはあんたの基地でしょ?わたしには関係ないわね。
…ドリーマーは椅子から立ち上がった。
デストロイヤー:
ちょちょっと!ドリーマー、どこに行くの!
ドリーマー:
代理人…新たな命令が来たわ、所定箇所で待機せよですって。
はぁーっ…めんどくさい、ただ人に会うためだけに動かないとなんて…
こんなことより、何かを破壊する方がよっぽど有意義だわ。
デストロイヤー:
そ、そう!そうよ!せっかく時間があるなら、まずわたしを助けるのがいいんじゃ無いかな!
ドリーマー:
そうね…
確かにこの状況で出かけるのは、ちょっと面倒ね。
少し邪魔なゴミ共を片付けましょうか…あんた、わたしについてきなさい。
デストロイヤー:
え?わたしも?だけど指揮室が…
ちょ、ちょっと待ってよ!ドリーマー!
ドリーマー:
早くゴミ共を掃除しないと。(小声で)こういう時は…ゴミをおびき寄せる餌が必要よね…
フフフ…
……
…
M16A1:
…ペル…シカ。
ファイルを…全て取り込んだ。
ペルシカ:
…よくやったわ、M16。
ドローンを使って16LABに送ってちょうだい。
M16A1:
もう送ったさ、あなたがくれた装備と一緒にね…
結局、わたしは一度も使わなかった。M4A1も使わないことを祈るよ…
ペルシカ:
…それは彼女が判断することよ。
M16A1:
はっ、そうだな…あいつは賢いからな…
いや、少し賢すぎると言うべきか。優柔不断なAIは指揮する側として不適格だが、開発段階でリーダー適性を最適化するべきだったんじゃないか。
あるいは、わたしがもっと厳しく接するべきだったのか…残念だけどもうその機会は、無いんだろ…
ペルシカ:
おそらく…けど、あなたはまだ彼女の助けになっている。
分かるかしら…M4はわたしのすぐ後ろにいる。あなたの言葉をそっくりそのまま彼女のマインドマップへ入力しているの。
M16A1:
なぜそんなことを?
ペルシカ:
マインドマップを安定させる為よ。
今、彼女にかけらえているリミッターを解除しているの。機械的に強制解除を行えば、マインドマップが破壊されるかもしれない。
あなたの声は彼女を落ち着かせ、安定させる。AIの人格を修復・調整するには必要不可欠なのよ。
M16A1:
リミッター?調整?さっぱり分からないな…
ペルシカ:
M4A1…今回は、ただ彼女を覚醒させるわけじゃない。
彼女が目を覚ましたなら、これまで以上に信頼でき…強力な人形になる…
…それこそ…彼女の本来の姿よ。
M16A1:
そうか…M4A1がそうなるなんて、想像もつかないな。
惜しいことに…わたしは、その姿を見れそうに無い…
ペルシカ:
M16A1、後悔してる?
M16A1:
後悔する理由がどこにある?これは大きな成果だ。
あいつの存在は、わたしなんかよりもっと重要というだけ…
M16A1:
くそっ…
ペルシカ:
どうしたの?あなた、マインドマップが…不安定化してる。
M16A1:
頭の中が…痛み始めた…
微弱な刺激だ、激しくは無い。ただ苛つくな…これが、【傘】によってマインドマップが書き換えられる兆候なのか?
ペルシカ:
おそらく…けど、AR15はそんなこと報告してなかった。
M16A1:
だろうな、報告するとは思えん。あいつは…仲間思いで、強いからな。
それから…通信チャンネルにノイズがかかってきた…
ペルシカ:
鉄血がモジュール部を書き換えてるのね、チャンネルにも影響を与えるのか。
わたしの声も、直に聞こえなくなるわ…
M16A1:
そうか…M4A1に最後の言葉を伝えてもいいだろうか?
ペルシカ:
同期はまだ切れてない、別れを告げたいなら今やりましょう。
M16A1:
ははっ、わたしの声であいつが目覚める?まるでおとぎ話だな。
ペルシカ:
何を伝える?
…M16はしばらく沈黙した。
M16A1:
M4…わたしが帰るまで待っててくれ。
例え、わたしがどんな姿になったとしても…
ペルシカ
M16…
M16A1:
はっ、少し恥ずかしいな…
けどわたしが伝えたいのは、これだけさ…
M4とのリンクが途切れ、M16は地面に倒れ込んだ。
M16A1:
これで、わたしの使命は終わったのか?ようやくゆっくり休める。
まだ自我が残ってるあいだに、最後の挨拶でも…
M4A1:
M16…
M16A1:
……!
M4A1:
M16…
行か…で
ペルシカ:
……!
M4A1:
M16…行かないで…!
M16A1ーー!!
暗闇の中、自らを見失っていたわたしは遂に希望を見つけた。
わたしがいつも追いかけ、そして信頼していた人、その影が遠くで微かに燃えている。あれこそ、わたしが探していた物…
わたしが追いかけると炎は急速に大きくなり、そして強烈な光を放った…
光は天井のライトへと変わり…わたしは遂に終わることの無い夢から現実へ戻ってきた。

M4A1:
ハッ…!ハァ…!ハァ…!
ペルシカ:
M4A1…あなた、ついに…
M4A1:
わたし…ここは…?
ペルシカ:
あなたの家よ、M4。よく、よく戻ってきてくれた…
M4A1:
そうなの…ようやく…それで、ペルシカ…さん。
…M16は?
わたし、彼女の声を聞いたの…
ペルシカ:
M16…彼女は、任務を遂行中よ…しばらく戻ってこないわ…
M4A1:
そんな…会いたい…彼女に、会いたいです…!
M16A1:
そうか…M4、再会するには、長い時間が…
通信チャンネルがノイズに覆われ、信号が完全に遮断された。遂に別れの時が来たのか、皆を残したまま…
立ち上がり体についた汚れを払い落とす。なぜだろうか、この部屋に少し愛着が湧いていた。記憶領域が消えているからじゃ無い。なぜならここは、最後の挨拶をした場所なのだから…
【傘】に感染し、盗聴、監視され、情報をリークする存在となってしまったわたしは…一体どうなってしまうのか?瞬間、わたしの心に浮かんだのは自身でも他の誰でも無く、AR15だった…あいつなら…こんな時何を考えてたんだろうな…
もう思考することすらできない…重く息を吐き、自身の名と同じ武器をしっかりつかんだ。古い鉄扉がきしむ音だけをを残し、わたしは部屋を出た。
「善良な市民が朝目覚めたとき、今日という日が人生最後の日になるなんて夢にも思わないだろう」
時には全てを失った方が、物事は簡単になるのかもしれない…
…バタン!
もう、四肢を動かすことすら、できない…わたしは電池の切れたロボットのように地面へ倒れ込んだ。
どうやら、これまでのようだ…
あとは…ただ己の運命を待つだけ…
……
M16A1:
歌…声?
澄んだ女性の声が耳に入って来たが、もはやどこから音が流れているかすら判別できない。
ただ聞いているのも悪くないだろう…もはやこれ以上、動くこともできない…
M16A1:
いい歌だな…
わたしも遂に…「夢」というものを見るのか…
ドリーマー:
違うね、M16A1。これは夢でも幻覚でも無い。
あんたは鉄血の深層ネットワークへ接続されたんだろう。

M16A1:
…ドリー…マー…
ドリーマー:
ああ、わたしはね…こんな仕事をするのはとても、とってもイヤなんだけど…
いきなり夜勤当直をさせられるみたいで、ホントに不快だわ…
M16A1:
何故…銃、を…向けない…?
ドリーマー:
ビビらないでよ。ねぇ、あんたに面白いことを教えてあげる。
さっきねぇ、ドローンが1機飛んでるのを見つけたの…そう、まるで狙ってくれと言わんばかりにね…
M16A1:
お前…何を?!
M16A1:
撃墜はしたけど、墜落地点の確認までする義務は無いからねぇ。どちらが先に手に入れるか、わたしも今から楽しみだわ。
もちろん、今のあなたにはどうにもできないけどね。
M16A1:
はっ…甘く見るなよ…わたしたちの、指揮官をな…
ドリーマー:
正直ね、それがどうなろうとわたしにとってはどうでもいいことよ。
M16A1:
ならば…なぜ…ここに?
ドリーマー:
正確に言うと、わたしたちのエルダーブレインがあなたに会いたいって。
M16A1:
ああ?どこに、いるって言うんだ…?
ドリーマー:
ここにはいないわ…あのお方は、あなたの「心の中」にいる…
もう、聞こえているはずよ?
M16A1:
……!
翌日、グリフィン本部
ヘリアン:
よく来て下さいました、クルーガーさん。昨晩の問題は全て解決しましたか?
クルーガー:
ああ、ペルシカのおかげで何とかな。
だが、これで終わりでは無い。軍からの圧力は更に強くなるだろう。
ヘリアン:
それで、クルーガーさん…M16A1についてですが…
クルーガー:
この犠牲を無駄にはできない。
指揮官に伝えてくれ。作戦に参加した人形のケア、並びにマインドマップを注視するようにな。
ヘリアン:
分かりました。ただ、1つだけ言わせて下さい。AR小隊のマインドクラウドはこのような状況下に最適と言えないのでは?
クルーガー:
あらゆる物に存在意義があるのだ、ヘリアン。ここは戦場だ、それ以上に優先すべきことが多々ある。
わたしはオフィスに戻る。以前策定した作戦計画を見直す必要があるからな。
ヘリアン:
はい…
クルーガーさん、鉄血との決戦が…もうすぐ始まるのですか?
クルーガー:
可能な限り早く準備をするんだ…
クルーガー:
少なくとも、遠くない未来には…
8-4E ピルグリムⅣ
終
コメント